DCMK
騙し騙されその外側/白快
黒羽快斗がイエスと言うことはたいてい、白馬探がノーと首を振る。何気ない学校生活の一場面だ。クラスメイトたちは皆もう見慣れてしまっているから、なんともないふりして、またか、と心の中で笑うくらいだった。
「だーかーらぁ、お前が休んでたのが悪いんじゃん。俺が代わりに決めといてやったんだから、素直にハイって承諾しろよ。女々しいぞ。」
「まず君が僕の代わりに決めるということがおかしいだろう。先ほど確認を取ってきたけれど、学級委員の子は『ノリノリで黒羽君が真っ先に白馬君の名前を出した』と言っていたよ。それについて、何か言うことは?」
「げえ、なに、もう知ってたのかよ。お前ほんっとう性格悪ィな?」
こんな時期に休んでしまった自分も自分だ。白馬は面倒臭いなあと、嫌そうな態度をにじみだして、眉をひそめることを隠そうともしなかった。世間体を保つなど、白馬の場合はしてもしなくても同じだったからだ。どんな仕草をしようが、女子は黄色い声をそこらかしこであげている。
黒羽快斗はおどけたように言った。いーじゃん、王子様はな、白馬に乗ってくるってのがお約束だろうが。だから王子様役、ぴったりじゃん。差しだされたプリントの、劇の配役が書かれているページにはしっかりと『白馬探』の文字。なにが王子様だ、今の状況はまるで、詐欺師にひっかかったいたいけな市民Aだろう。
「……別に、断ろうとは思っていないさ」
「……ぉお? そうかそうか、オメーってば潔い奴だなあ!」
「僕が断ったら、熱烈に推薦してくれた君の立場がなくなって、それはそれは可哀相だと思ったのでね」
「おいコラ、声が笑ってんぞ」
「おやこれは失敬。」
学校に登校してきてみれば、いつもより三割増し程の女子の視線と、青子の頑張ってね! という言葉。それに加えて、この黒羽快斗のにたあっとした顔を見れば、悪い予感が頭を占めたのも無理はなかった。文化祭で劇をやるとなれば、経費は浮くし、当日の仕事も少なくて済む。ただし、役者を除いては、の話だが。
「オメー普段から台詞が役者じみてるし、いいだろ」
「怪盗何某さんだって、そうだろうに」
「なんだって?」
けらけらと笑っていた黒羽の顔が、ころりと変わる。じと目で送られてくる刺さるような視線を手のひらで防いで、白馬は黒羽から視線を外した。
「まあ、それに、あんな可愛い女性に困った顔をさせてしまっては申し訳ないしね」
「この女タラシ。」
「君ほどでもないさ」
事情をうかがった女子学級委員の顔がうかぶ。ごめんねごめんねと、眉尻を下げて言うものだから、すぐに折れた。女性を悲しませることは、主義に反する。第一、黒羽の推薦を発端に、すんなりと決まってしまったことを制する必要もなかったのだろう。良くも悪くも、白馬は適役だった。本人の意思はともかくとして。
だから白馬は、最初から断ろうとは思っていなかった。記憶力は良い方だ。それに、演技力もそれなりにはあるだろう。自負しているわけではないが、探偵という役柄上、自然と身についてくるものである。
ただし。ただしそれで、黒羽がしてやったりと喜ぶのはなんだか気に食わなかったので。こうして真っ先に黒羽のもとへやってきて、嫌味をぶつけた。自分もたいがい負けず嫌いだということを、白馬は自覚している。
「つか、それだと俺、わざわざお前に捕まって怒られる必要なくね?」
「なんだ、今頃気がついたのかい」








「俺はさあー、白馬のことはもっちろん、きらいなんだけど」
「……なんだい。いきなり」
「たまにこーして宿題写させてくれんなら、まあ、スキかなって」
「僕は君の判断基準が損得に依存することに少しばかり憤りを感じるよ」
「おまえだけだって。」
「なおさら遺憾だ。それに君なら、これくらいすぐ解けるだろう」
「途中式なんて書かなきゃいけない問題は答えを写したほうがはえんだよ。単に効率の問題。てか昨日も寝てないみてーだけど、おめーよく宿題やってきたなあ。なに、徹夜? クマひどいぜ」
「……どこぞの怪盗さんが、現場で睡眠ガスなんてものをまき散らすから、後始末に追われてね。まったく困ったものだよ」
「へえ。そりゃ。ご熱心なこって。お前キッドのことだいすきなのな」
「……あのねえ、君」
「ちげえの?」
「僕は別に好きとかそういった感情で彼を追っている訳では……」
「意識が向いてんなら、そうなんじゃねーの。お熱なようだしぃ? 感情なんて、おおまかに二分したら興味があるかないか、そのどちらかだと俺は思うけどね」
「……そう言われたら、まあ、確かに僕は怪盗キッドに興味がありますが」
「だろ。いやよいやよも好きのうち。愛憎は紙一重。ってことで、宿題サンキュー!」
「待ちたまえ」
「、なに」
「君は、自分が二分十五秒前に言ったことを覚えているかい」
「いやあー、すっかりさっぱり忘れたな!」