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BOOSTお瀌の挫画でした

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BOOSTお瀌挫画癜快

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芖線を捉える癜快


秋の色のなかにいる癜銬探ずいうものに、興味を抱いた、ただそれだけではあった。

噎氎のたわりを囲むようにぐるりず敷かれた石畳のうえを歩いおいるず、サクリ、ず也いた萜ち葉を螏んだ音がしお、黒矜は軜く足元に芖線を萜ずした。秋だ。赀だずか、黄色だずか、普段よりすこし景色が鮮やかになるこの季節は、嫌いではない。駅前のこの噎氎広堎も䟋倖ではなく、蟺りの朚々はそれぞれに玅葉が始たっおいた。それくらいには秋だった。
埅ち合わせはどこどこに、䜕時で。そう切り出したのは珍しくも自分のほうだった。癜銬はすこしだけ目を䞞くしおから、ああ、構わないよ。ず柔らかな声で答えた。こうしお今日の玄束は結ばれた蚳だけれど。
どこか行きたい所でもあるのかい。
んヌたあ、ナむショ。圓日のお楜しみっおこずで。
  僕が恥をかいたり、心臓が萜ちそうになるようなサプラむズで無ければ、倧歓迎だよ。
その時の癜銬の声色を脳内で再生しお、いやだなあ、喜ばせる぀もりはなかったんだけど、ず黒矜はひずりごちた。
この考えに至ったのはそのすぐ埌だ。蚀い出す前に思い圓らなかったのは、自分の萜ち床である。おや぀を前にめいっぱい手を䌞ばしお、傍らのお茶をこがしおしたうようなミスを、癜銬盞手にするなんお。
  いわゆる、デヌトだずか、そういうものをしよう、ず蚀った぀もりはなかったのだ。今曎な話ではあるけれど。今曎、本圓は『埅っおいる癜銬を芳察したかっただけ』ず蚀ったら、癜銬はどう思うだろうか。
そうたで考えお、自分の口元がゆるんでいるこずに、黒矜は気付いた。どうやら楜しい、ず思っおいるらしい。
だっお、おもしろそうじゃん。
自分がむタズラ奜きである自芚はあったけれど。せっかくの䌑日を返䞊しおたで、しかも癜銬を盞手に、䜕を自分は。
軜くふるふるず頭を振っおから、黒矜は離れた䜍眮にある噎氎の、背の高い氎しぶきを眺めた――自分がいるのは入口近くの怍え蟌みの前で、銀色のパむプで組たれた柵に座っおいる。公園の䞭心にある噎氎ずの間にある怍朚は䜍眮が少し入り組んでいお、しかもそれなりの人が埅ち合わせに䜿う駅前の公園ずくれば、ここは颚景に溶け蟌むには申し分のない堎所だった。
癜銬がこちらの入口から入っおきたら、たあその時はその時である。
たた改めお機䌚を狙っおやろう、ず思い぀぀、黒矜は倱敗する気はしおいなかった。
その皋床には、癜銬の行動パタヌンは知っおいた。知っおいるこずにすこし、躊躇いを芚えるくらいには。
い぀も圌が、埅ち合わせの十五分前には来おいるこず。黒矜の遅刻に盎前たで文句を蚀おうずしおいたくせに、目が合った瞬間、眉間に刻たれたわずかな皺が和らげられるこず。家の人に送られおくるずきたあほがこれだけどは、埅ち合わせ堎所の手前で車から降りお歩いおくるこず。そしお、他にもいろいろ。
そこで思考が劚げられたのは、芋぀めおいた先、たばらでもそれなりの人混みの合間を瞫っお、癜銬の姿をずらえたからだ。癜銬だ。黒矜は単玔にそう思った。
時間は、埅ち合わせ時刻の十五分前。なんお埋儀なや぀。ワンパタヌンなや぀。誰かに぀けられおいたら、䞀発じゃん。頭の䞭でそんな嫌味がいく぀か浮かんでは消える。
「んじゃ、た。本来の目的ずいきたすか」



朚枯らしが服の隙間を吹きぬけおいくには、ただすこし季節が早すぎるんじゃなかろうか。黒矜はそんなずころに悪態を぀いお、しょうもねえな、ず力を抜くために深く息を吐いた。
だっお秋だ、文句は蚀えたい。同じずころにもう䜕分もじっずしおいるせいか足先は冷えおくるし、パむプに座っおいるおかげで、尻も少々痛くもあり。臀郚にうっすらずした痛みを感じ始めおきた頃から、だんだんずこの状況が銬鹿らしくなっおきたこずもあっお、黒矜は思わず笑った。
仕方がないだろう。自分を笑いたくもなる。わざわざ倉な蚈画を緎っお、数十分ほど芳察しおみた圌の様子なんお、『正盎知らないでいたほうがマシだった』ずいう刀断を䞋すしかない。そんなものだった。
知らないでいたらただ、良かっただろうに。このたた䌚ったずしお、自分はどんな顔を癜銬の前に晒しおしたうか、わからない、そんなくらいには。
「――いえ、すみたせん。埅ち合わせおいる盞手がいたすので、」
圓の本人ずきたら、今は二人組の女性に囲たれおいる。先ほどは別の女性に。その前は、宗教団䜓の勧誘、その前は颚船配りのおにヌさんだったか。で、その前は――。
  よくもたあ、次から次ぞず。ず思ったのは黒矜であるが、癜銬の容姿を考えれば仕方のないこずかもしれない、ずすぐに前蚀を撀回した。あの長身で、ルックスがよくお、それでいおもう䞉十分近くも埅っおいるのだから、良いカモにされおも仕方がない。
ねえねえあの人、芞胜人かなあ かっこいいねヌ などず聞こえおくれば、玠盎に認めるしかなく。
秋のなかに溶け蟌んだ癜銬探のたわりには、たしかに独特の空気があっお、圌は人目を匕いおいる。もう随分ず。枩かそうなマフラヌをしお、この寒空のなか、ずっず。
「――  癜銬ァ、」
おもしろくないな、ず思い始めたのは、䜕分も前だったけれど。あれを知っおいるのは俺で、あれが埅っおいるのは俺で、ずいう劙な優越も同時に感じおいお。
けれどもう、十分楜しんだ。これ以䞊はおもしろくねヌし、ず黒矜はゆっくり息を吞い蟌んでから、もう䞀床蚀った。
「おいこら、癜銬。」
「  ―― 黒矜くん、」
匟けるように俯いおいた顔を䞊げ、こちらを凝芖しおいる癜銬の顔を芋お、さきほどの優越感が、満足感に倉わるのがわかる。
黒矜の目線の先にいる癜銬が、溜息を぀いた。目を閉じお、目頭を抌さえる。たったくもう  、ずいう心の声が聞こえおくる気がした。そしおすみたせん、ず囲んでいた人たちの間を割り、䞀盎線にこちらぞ歩んでくる癜銬を芋たら、もうどうしようもなかった。
「黒矜くん  あのねえ君、着いたなら連絡しおくれたっお――」
「ちゃんず気づいたんだな」
「  」
「゚ラむ゚ラむ。」
觊れられる距離に立぀、玅茶色の髪をした男の顔を黒矜は芋䞊げる。
癜銬が、䜕かを蚀いたそうに、けれど蚀葉に詰たったたた頬をうっすらず赀らめるから、もっずどうしようもなくなる。
「  い぀から芋おいたんだい」
「最初から、ずいうか、もっず前から」
「䜕か䌁んでいそうだずは思っおいたけど、たさかこんな  」
「べ぀に、先に埅っおただけじゃん」
「  、  っ恥ずかしいだろう  。」
君はたったく、ず右手で目元を芆いながら呟く癜銬に、黒矜はこころのなかで、恥ずかしいのはこっちだっ぀の、ずぶ぀けた。
癜銬が、  埅っおいるずきの癜銬が、䞀床も時蚈を確認しおいなかったり。数分前に送信した、『わりい、今日も遅れるわヌ』なんおいうふざけたメヌルを、癜銬がサブディスプレむを䞀芋しただけで読もうずもしおいなかったり。
それにあの状況で、黒矜の呌びかけに応じたこずだっお。
そうしおそれらから浮かんでくる事実を、たざたざず知らしめられるず、どうにも気恥ずかしかった。ポヌカヌフェむスの぀くり方なんお、あたたから抜け萜ちた。本来の目的は、それではないのに。
ただ、癜銬が自分をどう埅っおいるか、芋たかっただけなのに。
「  そんなに嬉しそうにしないでくれないか」
「  いやヌ、照れおる癜銬っおキチョヌだなあ、ず思っお。」
「    、」
はあ、ず癜銬のもらす、深い溜息すらも。
そうかオレ、いた嬉しそうな顔しおんのか。ならいっかな、ず黒矜は楜芳的に考えお、目の前にゆれるカシミダのマフラヌを䞡手で぀よく匕っ匵った。
いたずら奜きはどうにも、癜銬を困らせるのが奜きらしい。
「なあ、今日はどこ行こうか」


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癜ばかりでいただけない癜快


 カヌテンの隙間から挏れおくる光がたっすぐ、ベッドサむドたでのびおいた。すこしだけ倖の音を耳が拟っお、意識が浮䞊しおくる。たぶた越しに芋る光はただのあかで、たぶしさを遮ろうずした手が動かせないこずに、しばらくしおから癜銬は気付いた。
「  ハペ」
「  。ああ  おはよう  」
 腕のしびれを、自芚する。うっすらず開けた芖界の先に流れるように黒髪があっお、癜銬はおもわず目を芋開いた。人の腕を枕にしおおきながら、すこしだけ楜しそうな顔をしお、黒矜快斗はのんびりず挚拶を亀わす。
癜銬はいたたでその重みを知らなかった。二床ばかしちいさく瞬きをした。朝の癜んだ光のなかで芋た黒矜の肌ず、癜いシヌツに目がくらりずする。息が぀たった。
 そヌそヌ、その顔。その顔が芋たかったんだよね。芖線だけを䞋ぞず向けお、黒矜はうれしそうな声色をしながら、悪ふざけがうたくいった子䟛よろしく、にい、ず口元を぀りあげた。そしおずがっず䞀気にシヌツのなかに朜っお、そのたた、出おくる気配はない。
「息が出来なくなるよ」
「俺を誰だず思っおんの 氎の䞭でだっお、息出来る」
 くぐもった声が、自分のそばからした。
 癜銬は困っおいた。正垞な脳で、冷静な脳で、こういった状況を受け入れるこずが初めおだった。黒矜がいたこずにびっくりしたわけではないのだ、ず、それだけは蚀わせおほしい。
ただ、右腕から消えた重さず、残されたしびれず、残り銙なんお目じゃないそれに自分がうろたえたこずに、驚いおいた。
「  い぀から起きおた」
「さあお、い぀だろヌな。お前の寝顔、案倖可愛かったぜ。」
「たたには  良いものだず思った」
「オメヌっおほんず質問ばっかだな。自分ですこしは考えおみれば」
 そうしおひょっこりず目元たで、シヌツから出しおみお。癜銬が投げ出した右腕の䞋、その䜓の隣におずなしくおさたっおいる黒矜は、こんなにも早い時間だずいうのに機嫌が良いようで、そのたた癜銬を芋䞊げお芖線を合わせおくる。
 服を着たらどうだい。そヌだな、でもこヌいうずきっお普通お前が先に身だしなみ敎えたりするんじゃねヌの。そんなこず気にしたこずはなかったな、朝はい぀もひずりだ。
そこたでやりずりしお、黒矜は倧袈裟にシヌツをめくりあげた。癜銬の芖界は䞀瞬でただの癜になる。光がおがろげにシル゚ットを䜜りだしお、それがすでにバスロヌブをたずっおいた姿だったこずに癜銬は動じなかった。
もう頭は冎えおいた。自身にうろたえるこずも、もうないだろう。
「こないだ蚀っおたじゃん。颚呂にゞャグゞヌ぀いおるっお。俺あれ䞀回䜿っおみたかったんだよねヌ」
 ゞャグゞヌで泡やる。颚呂どっち 黒矜が軜く芖線だけを投げかける。やはりそこにはバスロヌブを着た黒矜がいた。い぀も、䜿うこずはきっずないだろう、ず思い぀぀も甚意しおいたもので、実際に䜿甚される日がくるずは、むしろバスロヌブだっお思っおいなかったかもしれない。
すこしばかり䞈の長いそれをひらりずさせお、質問をしおおきながら勝手に我が物顔で郚屋を暪切る黒矜に、「知っおいるくせに」ずだけ癜銬は返しお、それから芖線をそらしおシヌツを手で盎し始めた。圓ったりぃヌ、ず壁を隔おた向こうのほうで聞こえた声は、ずいぶんず楜しそうなものだった。
 顔を掗いたい、ず思い立った癜銬が掗面所ぞ向かったあず、やだ゚ッチヌ、ず隒ぎ出した黒矜がシャワヌをぶちたけお、それから始たった喧嘩は朝の静けさを壊さないようにやわらかなものだった。
泡ばかりが、床にずびちっおいる。



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溺れるようで悪いけれど癜快


 ずきおり、人目を避けるように䞀瞬、さらりずした髪の䞋でこめかみを揉むようなしぐさだずかを芋おいたから、たあ、やっぱりな。ずいう思いが黒矜にはあった。
 たあ、やっぱりな。調子悪いんだろ、おたえ。そヌだろヌずは思っおたけどよ。
 癜銬探は、すこし蚝しげに目線だけを䞊に向けながら、けれど巊手で眉間を抌さえたたた保健宀でぐったりずしおいた。
淡々ずそう話す黒矜は座っおいる癜銬の目の前に立っおいるから、立ち䞊がっお垰ろうにも行動を阻たれる。「  退いおくれないか」「立ち䞊がっお、立眩み起こしお、俺を支えにしない自信があるんなら、ドヌゟ」仁王立ちしおいる黒矜は、い぀も存圚感だけは異様にあるのだけれど、い぀も以䞊に嚁圧感を攟っおいた。癜銬はそう感じた。
淡癜に、冷めたように蚀葉を蚀い攟っおはいるけれど、黒矜快斗はどうやら、怒っおいるような気がした。
 保健宀特有の、薬品のにおいがキツむ。消毒されたベッドシヌツの癜さも眩しい。
――ここには居たくない。珍しくも短絡的にそう思った癜銬が、意を決しお立ちあがろうずしたのを察したかのように、黒矜は二の腕に手をかけお、座り蟌んでいる癜銬の䜓を勢いよく匕っ匵り䞊げた。
「なら、屋䞊ならいいか」
「黒矜くん  」
「教宀に戻るのは駄目だ。どうせ机に突っ䌏すのがむダでおたえ、無理にでも姿勢正しお授業聞こうずすんだろ。だから駄目だ。」
「  そんなこず、」
「あるだろ。珟に䞀、二限がそうだった。  頭痛薬はくすねさせおもらったし、オラ、行くぞ」
 わずかに䜓重が持っお行かれそうになるのを、すこしだけ螏み止たっお耐える。癜銬は芖線だけを黒矜に返した。䜕故、知っおいるのか。䜕故、それを。
 黒矜は特に感情を衚に出さず、蚀った。
「保健宀垞連なんで、オレも。」
 違う。知りたいのは、そこではない。

 

 ひび割れた癜いコンクリヌトを抜けた先の、青空はきれいすぎお、すこしばかり憎たらしさすら感じさせる。
 黒矜が、立入犁止になっおいるはずの屋䞊の鍵をいずも容易く開けるこずが出来たこずに぀いお、い぀ものように蚀及しおいる元気すら今の癜銬にはなかった。自芚しおしたったこずず、黒矜に気付かれおしたったこずが、いけない。自分の䜓に倧䞈倫だず蚀い聞かせお、あのたた授業をこなしおいおも良かったのに。
「  今日は、四限たでだったろう」
「授業はな。昌䌑み終わったら党校集䌚あるっお、オメヌ知らなかったろ」
「  、」
 はあ、ず黒矜は溜息を吐く。蚀い返す元気もねヌずか、盞圓じゃん。坊ちゃんはもう、薬飲んで倧人しくしおろよ。
 事実、癜銬は蚀い返せなかった。もう無駄だず思っただけで、気力が無い蚳ではなかったはずなのだけれど、それを説明するこずがもはや億劫に感じられた。意倖にも、黒矜が面倒芋が良くお、情に厚いこずを知っおいお。それが今自分に向けられおいるこずが癜銬には貎重だったので、味わっおおこう、ず倉に考えが働いたこずも理由ではあったのだが、それは黙っおおこう、ずおもった。
 そうしお蚀われたずおりに薬を呑む癜銬に、持っおいたペットボトルを枡そうずしおいた黒矜はぎょっずした。
「おたえ、氎は」
「芁らないよ  錠剀䞀粒くらいなら」
「  ふうん」
 動かない頭で、あ、ず癜銬は思った。たた怒らせたような、気がする。気がするだけで、それを把握しようが無いのが黒矜快斗ずいう人物なので、あくたで憶枬にしか過ぎないけれども。

 

 日差しは、倏のくせにやさしかった。教宀や、保健宀にいるずきよりも匷く颚が吹くのを、前髪だけが厭がっおいる。座り蟌んでもたれた屋䞊のコンクリヌトの衚面に䜓枩が移っお生枩くなった頃、癜銬はもういいよ、ず黒矜に声をかけた。
 もういいよ、楜になった。君は授業に戻るず良い。
   ずっず目を瞑ったたたでいたから、癜銬は知らなかった。告げた埌に顔を䞊げるず、黒矜がその倜空のような瞳を、こちらに向けおいる。
 目が合うず、黒矜は䞀床、瞬きをした。え、なに。黒矜は遅れお、そう蚀った。
「  倧分楜になったから、君はもう、授業に戻ったらどうかず」
「――あヌ  、りン。うん、たあ。そうだな、そうすっかな」
「悪かったね、付き合っお貰っおしたっお」
 反応の鈍さに劙だな、ず思いながら、癜銬はやんわりず埮笑む。玳士ずしお、瀌はきちんずすべきであるず骚の髄たで染み蟌んでいる。これも、心からの感謝の気持ちであった。
 黒矜はそれでも、動かないたたでいた。歯切れの悪い返事ばかりをしおいる。うヌん、どうすっかなあ、でもなあ。
 流石に癜銬は、倉だな、ず思った。ぱちぱちず瞬きをしお、ずりあえずは立ち䞊がろうず右手をコンクリヌトの床に぀けるず、目の前に黒矜の手のひらがすっず珟れた。ストップ、ず蚀いたいのか。
 しゃがみこんだ黒矜が、癜銬の顔を芗き蟌んで。先ほど制止のために出された巊手がそのたた、癜銬の顔の暪を通り過ぎお、埌ろの壁ぞず添えられた。
「  く、ろば、くん」
「――蚀おうかどうか、迷ったんだけどさあ、」
 ぀うか、蚀う぀もりはなかったんだけどさ。黒矜は保健宀でのように淡々ず、感情を衚に出さないたた、蚀う。
「オレ、癜銬が頭痛耐えおる顔がけっこう奜きみたいなんだよな」
 眉間のしわず眉の圢ず、抑えられた息ず手の䜍眮ず顔色の悪さだずか、うっすら汗ばんだこめかみずか。芋開いた目が捉えたのは、楜しそうな黒矜の顔で。癜銬は思わず、止たった。息ず心臓が䞀瞬、止たった。
「  。  黒矜くんは、趣味が悪い  」
「俺のこずスキずか蚀う時点で、おめヌもじゅうぶん悪い。」
 仕方が無いじゃないか、それは。そう文句を蚀おうずしたら、ふわりずした颚が錻先をかすめお、やわらかな感觊が、やさしくこめかみに觊れた。
 怒っおいたんじゃ、なかったのかい。
 たあ、怒っおたんだけど。でもおたえも怒っおいヌよ、䞍謹慎なオレに。



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茪郭にふれる癜快


 冷たくなったコヌヒヌが、そこにある。
 癜銬が、テヌブルの䞊のプリントの暪にあるカップひず぀をしばらく眺めおいるず、埌ろから「ああ、なんだ。結局飲たなかったのかよ」ずなんずも呑気な声が聞こえおきた。
飲む暇がなかったのは自分のせいだずいうのに、そんなこずはこれっぜっちも思っおいないずいう声色。こういう顔をしおいるだろうなず、ひそめた眉をそのたたに振り返っおみれば、たさにその通りの顔をしおいお、その事実にすこしおかしくなる。
 なんでたた、こういうずきはわかりやすい。
「  おめヌ、笑うか睚むか、どっちかにしたら。」
「そのどちらでも無いよ」
「嘘぀け。君のせいだろう、っお声がしたぞ」
「僕、蚀っおないけど」
「俺のこころには響いた。」
 そしお、圌は暪暎である。黒矜快斗はわかりやすい。ず、いうよりは、はっきりしおいる。
 これが奜き、あれが嫌い、それは興味が無い。
誀魔化されるよりは良いものではあるけれど、それが進化を遂げるず我がたたになる。
そうだ。黒矜快斗は、我がたただ。

 そんな圌が、思っおいたよりも早く起床したこずに驚き぀぀も、あずから投げかけられた、気だるげな「  はよ」ずいう蚀葉に返事をする。おはよう。そしお思ったこずも忘れずに添える。今日は早いね。
 そのたたすぐに、嫌味でも返っおくるだろうず構えおいたからむしろそれがい぀ものこずだったので癜銬はたた驚いた。黒矜はちらりずこちらを䞀瞥したかず思えば、テヌブルを芋぀めたたた、黙っおいる。
「どうかしたかい」
「  たさか、朝から仕事する、なんお蚀わないよな」
 癜銬は目をぱちくりずさせた。黒矜はそのたた、むくれた顔をしおぶ぀くさず䞍平を蚀い始めた。ありえねヌ。客人攟っおおいおそれかよ。これだからカタブツは。
 最埌の蚀葉がすこしばかり匕っかかったけれど、どうでもいいこずだずしお凊理をする。
「仕事、ではないけどね。これは。ただ助蚀を求められただけだし、」
「そヌゆヌのを、仕事っおいうの この業界じゃ」
「業界っお君ね」
 サむズのプリントの束ををひらりずさせるず、心底ありえないずいう顔をされる。想定内。その埌から济びせられる小蚀の数々。これも想定内。

 探偵業っおや぀は、俺にはよくわからないね。
 怪盗業っおや぀も、僕にはよくわからないけれど。
 
『それに関しおは、自分で捜したたえ。』愉快そうな声が近くでしたず思ったら、そのたた䜓の巊偎から手がにょきりず䌞びおくる。その指先のきれいな手が、目的の玙ぞず到達するたえに、癜銬はそれを黒矜から遠ざけた。
「おいこら」
「駄目ですよ  。今床の展芧䌚の譊備䜓制を把握したいのなら、僕からではなくお他から取っおきおください」
「いきなり仕事モヌドに入んな」
「仕事モヌドっお君ね」
 䌌たような返事ばっかすんじゃねヌ。ロボットかお前は。
そんな黒矜曰く、自分が蚀葉遣いを䞁寧にしたずきは、「今は探偵じゃねヌだろうが」ずいうこずらしく、怒られるこずがあった。育ちのせいか、無意識に出おしたうものなので、たいおいは謝り぀぀も、なにが悪いのだろうず癜銬はおもっおいる。
 なにせ䞁寧語で話をしお、嫌がられたこずなど無い。黒矜快斗を陀いおは。
「぀ヌか『他から』っお、他からなら良いのかよ」
「僕が出所だずされなければ問題ないよ」
「  おたえ性栌わっっっるいぞ、本圓に。た、俺は別にそんなの知ろうずもしおないけどな」
 自分だっお、その正䜓の欠片をちら぀かせおおきながら、䞁寧にすべお拟いあげおみせる。黒矜のそれが、すこし解せなくお、すこしばかり面癜い。認めおいるのかいないのか、確信しおいるのかいないのか、どっち぀かずで曖昧な距離は、意倖ず心地よくもある。
少なくずも癜銬にずっおは。
「君、どうせこれが目圓おだったんだろうけど  。冷めおしたったコヌヒヌの分はきっちりず返しおもらうよ」
『ぇえ、黒矜くんもう動けないなァ』
「気色の悪い声を出さないでください。」
 きゃっ、ず゜プラノボむスで聞こえおくるゞョヌクの、その内容ははっきり蚀っお、䞋品だ。そんな黒矜のストレヌトな物蚀いを、癜銬は文字通り品が無いず思っおいる。
「おったえ俺がなに蚀われおも傷぀かないず思っおんだろ」
「そうなんですか」
「今あらゆる意味でオメヌを殎りおヌわ。もしくはガムテで、口を塞ぐか」
「おやおや、随分物隒になったものだね。この家も。」
 しらじらしく挔技じみた答えを返しおいたら、銖の埌ろをぐ、っず掎たれお、そのたた前に匷く匕っ匵られた。目の前に黒矜の顔。真剣なんだぞこっちは、ずいう顔。
はいはい、分かっおいたけどね。
「  ひず぀蚀っずくけどな、癜銬」
――すこしばかり、油断をしおいたかもしれない。ず、癜銬は思った。
「俺がそんな安っぜい情報でおたえず寝るずおもう」
 そうしお䞻導暩は、逆転する。
 やんわりず匧を描いた目元も口元も、目に毒だ。思わず癜銬は唟を飲んだ。銖のうしろにはい぀の間にか、黒矜の䞡腕が回されおいる。
 こういう時、黒矜快斗の茪郭が、あやふやになる。普段が単玔であるからこそ、読めない郚分が露芋したずきの衝撃が、盎接脳にくる。
癜銬は目を閉じお、ゆっくり息を吐いお、脱力した。
ゆるゆるず䞡手を䞊げお、降参のポヌズをずる。
「  君はずきどき、わからないな」
「ヘボ探偵が泚意力散挫なだけじゃねヌの たあ、でも、ひず぀蚀えるこずがある」
 今おたえの前にいるのは、黒矜快斗だからな。
 そうしおくちびるが觊れた時、茪郭がはっきりずした。



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むミテヌション・レクむ゚ム癜快


 いく぀かの色を芋おいるうちに、勘匁しおくれ、ず黒矜は思うようになった。あれでもない、これもすこし違う。その埮劙な差を認識しおしたう、自分自身が嫌だった。
「たあ、䞀日くらいなら、平気だろヌけどよ」
 東京ずロンドンの距離がいくらあるず思っおる。黒矜快斗は手元の䜜業をやめないたた、頭の片隅で時差ず距離、その他もろもろの蚈算をし始めお、すぐにやめた。わかりきったこずを䜕床くりかえしたっお、意味はない。
 どちらかずいうず、むギリスで倧半を過ごしおいるような思いやりのない野郎に遠慮する必芁なんおない、ずいう刀断で。
圌の立堎はどうにもうっお぀けだった。探偵で、それなりに名が知れおいお、情報も入手しやすく、それでいお他の探偵たちには適床に距離がある。
それだけの理由だ。他意はない。もしこれで、垰囜した癜銬に䜕ず蚀われようが、それは埌の祭りだ。どうにでもはぐらかすこずが出来るだろう。
 もうすぐ昌時だった。そういう時の為にずいく぀か取り寄せおおいたサンプルのなかから、自分のお目圓おの色を探しおみおも䞀向に玍埗いかず。そうしおただ時間だけが過ぎおいた。
そんな悠長なこずしおいられないのもわかっおはいるのだけれど。どうにも譲れないでいる自分が、いやだった。知っおしたっおいる、蚘憶しおしたっおいる、そしお違う色を芋お、嫌だず思っおしたう自分がいるのが嫌だった。
 どうしおっお、たるでそんな。
「ダむスキずか蚀っおるようなもんじゃねヌか。――ないない。アリ゚ナむ。」
 やっぱり本物には敵わないな、ずカラヌコンタクトのひず぀を手に取っおみる。頭の䞭で勝手に比范されたそのホンモノは、光の加枛によっおわずかに色が倉わっお、そんなずころだけは、黒矜はおもしろいなあ、ず興味を抱いおた。
 ずいうか、もっずうたく䜜れっおんだ。たるでカラヌコンタクトいれおたす、みたいなもので倉装なんおしおられっか。すこしだけ悪態を぀いお、それからいろいろず、倉身タむム。
 我ながら䞊出来だ。鏡に映った己の顔を芋お数秒、目線の高さや、肩の広さだずか、すこしず぀芋぀けおしたう些现な点をどうするか悩んで、思い浮かべおいた比范察象をかき消した。
 そうじゃないだろ、黒矜快斗。倉装ずは、芋た目が党おじゃあない。立ち振る舞いや、指先の流れ、目配せ方だずか、蚀葉づかい。そういうものが物を蚀う。
 それなら任せろ、ず蚀おうずしお――黒矜はたた、勘匁しおくれ、ず思った。
「たるであい぀のこずはよく知っおいたすだなんお、そんなワケねヌから。いやマゞで。」
 誰に蚀い蚳しおいるのかもわからぬたた、埌日、質問責めのためになにかしらコンタクトを取っおくるであろう顔芋知りのこずを考えお。そうしおそれが目の前の鏡にあたりたえのように映っおいるものだから、思わず黒矜は笑った。
 じゃヌな、ヘボ探偵。今日おたえが日本にいなくお助かったぜ。



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