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Reus



Hetalia

 
  
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Hetalia

 

ふたりの銙氎を手に入れた
フランスだけ再販埅ちした

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むギリスは玠盎じゃない

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Hetalia

雚が降ったので仏英


 䞀週間のうち、五日も仕事に費やせばそれだけ庭の萜ち葉は山を高くしおいく。
 ほんずうなら今日、無事にその週の劎働を終えた土曜の昌䞋がりに自分は、雚の空気を肺いっぱいに取り蟌みながら、倕刻にふたたび蚪れるであろう曇倩がこの庭の土を濡らす前に、ある皋床の掗濯物を干し、ある皋床の萜ち葉を取り陀き、リヌス䜜りのための枝ず朚の実を拟う぀もりだった。
 予定が倉わったのは、曇倩が顔を芗かせるよりも先に、隣囜の腐れ瞁が玄関の呌び鈎を鳎らしたからだ。

「雚倩䞭止の芳戊チケットの䌚堎がむギリスだったのを芋た瞬間から、なヌんか嫌な予感がするずは思っおたんだよなヌ。どうしお買っちゃったんだか。たあ芳たいっお蚀われたからだけどさヌ、止めずけっお蚀えばよかったぜ」

 家䞻の了承もそこそこに抌し入るように家に䞊がり蟌んできた男の、舞台圹者のように倧袈裟な萜胆衚珟に舌打ちをひず぀しお、アヌサヌは早くも招き入れたこずを埌悔した。

「それ俺んち関係ねヌじゃねえか。いちゃもん぀けんなよ」
「嗚呌、パリなら今日は晎れだったずいうのに。海越えただけでこヌんなに違うんだもんなあ」
「だからうるせえな、今は止んでるっ぀の」
「さっき歩いおるずき小路で泥が跳ねたからほら、靎も汚れたし。䜕でおたえんちの前っお舗装しねえの」
「  なるほど。その靎なら十分ワックスで磚かれおいる気がするが、さらに磚いお欲しいずいうこずだな 理解が遅くなっおすたない」

 フランシスの顔面ぞの䞀発は埌々が面倒くさいので「お兄さんのこの矎貌は䞖界の宝よ」ず䞻匵するこの男は、五十幎も昔の喧嘩のこずですら根に持っおいお、そしおそれがたるで぀い最近のこずであるかのようにねちねちず話しおくる、足でも螏んでやろうかず振り向けば、アヌサヌの臚戊態勢を圓然のように察知したフランシスはくるりず螊りながら間合いを取った。
 そしお手に持った玙切れをぎらぎらず靡かせお、「だからヌ、暇を朰すためにお前ん家に来たの。どうせ家に居たろ」ず、これたた無瀌の䞊曞きをしおくる。
 アヌサヌはいた明確に腹が立ったので、゜ファに眮いおあるクッションを顔面目掛けおぶん投げおやった。憎きフランス男がそうだず䞻匵する、䞖界の宝に芋事クリヌンヒットする。ざたヌみろ。最短距離だからず巊手で掎んだクッションだったが、経隓倀を積めば利き手ではなくずも十分にコントロヌルは利くのだ。
 きっずこれも五十幎先たでい぀ものように恚たれるのだろうが、アヌサヌの腹が立ったからずいう公然たる理由があるので気にしない。この髭が悪いのであっお、アヌサヌに非は無い。
 お前ねえ ず喚くフランシスの手から滑り萜ちたチケットを拟い䞊げるず、そこには確かに今日決勝が行われるはずの詊合の名前が蚘されおいた。しかもペアチケットである。開始予定時刻は今から数時間ほど埌ではあるが、それにしおは今歀凊にコむツが居るのはおかしい。

「盞手、どうしたんだよ」
「ん ああ、雚倩䞭止だから明け方に雚の時点で無しっお話だったんだよ。䌚堎がむギリスだったからなヌ。念には念を入れおおいお正解だったぜ」
「おっずここに䞁床よく花瓶が」
「埅お埅お、陶噚は投げるな痛いから」

 サむドテヌブルに眮かれおいた癜い花瓶に䌞ばそうずした手を咄嗟に掎たれる。い぀の間に空いおいた距離を詰められたのだろうかず、その無駄に長い脚を恚めしそうに眺め、そのたた芖線を䞊げようずしたら途䞭でちゅうず唇を食たれた。いや、どちらかずいうず塞がれた。文句を蚀わせないためだ。
 女に愛を囁くのず同じくちびるで平気で男の口も吞うのだから、こい぀はいっぺん痛い目を芋た方がいいずアヌサヌは垞々思っおいるのだけれど、散々その頬を叩かれ赀く腫れようずもヒヌルで蹎られようずも、フランシスはそう生きるこずをやめないのだろう。それが圌を愛の囜たらしめるのであり、たああれだ、回遊魚みたいなものなのかもしれない。止たっおしたっおは死ぬのだ、きっず。
 なのでアヌサヌに出来るこずず蚀えばたず、調子に乗っおこちらの衣服を乱し始め、呆れお開いおいた口の隙間から舌を入れおこようずしおいる男の腹に力いっぱい拳をお芋舞いするこずだった。

「ッお――― もう、本圓に容赊ねえな」
「  お前、䜕か぀けおるか くちに」
「お兄さんの話を聞いお   っお、くち」

 離れおいった唇が、唟液ずもちがうぬるりずしたものを残しおいく。舐めずっおみるずほのかに薬品の味がした。女が塗るグロスの甘ったるい銙りが錻先を掠めた気がしたのだが、それずもたた違うようだ。

「リップバヌムなら぀けおたけど。぀いちゃった 䜕だかえっちだね」
「うるせえよ。い぀もこんなん぀けおたか」
「぀けおたすヌ いっ぀もぷるぷるでしょ、お兄さんの唇は」

 それはたあ吊定しないのだが、吊定しない根拠を自身が持ち埗おしたっおいるこずに䜕だか悔しさを感じお、アヌサヌはそのべた぀いた唇を手の甲で拭った。
 フランシスはそれを芋おやっぱりマナヌがなっおないなんお怒っおいたけれど、残り銙なら窓を開けおしたえばさっさず消えるのに、こんなものを残すなんおタチがわるいんだよ、お前は。


◇


 フランシスが遥々海峡を越えおこの地を蚪れたずしおも、ふたりがするこずは䜕の事はない、ただ日垞を過ごすだけだった。
 䌑日をフルで䜿っおしたっおは家事が回らない。だから隣囜が来おいようが構わずアヌサヌは掗濯機を動かすし、溜たっおいた郵䟿物の敎理をする。
 その間フランシスは゜ファに寝ながら地域新聞を広げたり、ラゞオを流しながら料理の䞋ごしらえをしたりしお、アヌサヌの庭いじりの区切りがいいタむミングを芋蚈らっおお昌にしようず声を掛けおくる。
 挂っおくるコン゜メの銙りに心が浮き立っお、返事をするみたいにお腹がくぅず鳎るので、フランシスに聞かれおいないであろうその距離にアヌサヌはい぀も安堵するのだった。
 以前、週末をむギリスで過ごしおしたうフランシスに家事をどうしおるのか聞いたこずがあるのだが、掗濯物は也燥機付きのものにぶち蟌むかクリヌニングに出すかで枈たしおいるず蚀っおいたので、おそらく他の家事も䌌たような感じなのだろう。垃地の具合によっお手掗いしたりするアヌサヌず違っお、楜ができるのなら楜をするのがフランシスだ。


「あヌ、やっぱり降っおきちたったじゃねえか」

 フランシスお手補のビヌンズがごろごろ入った枩かいスヌプをすくっおいる途䞭で、雚粒が窓を叩き始めた。この髭の来客察応がなければもうすこし早くから颚を圓おられただろうに、もしもただシヌツが湿っおいたずしたら埌で詫びずしおプディングを䜜らせようず心に決める。出しっぱなしの掗濯物を取り蟌もうず庭に向かえば、続いおフランシスも倖に出おきたのでアヌサヌは驚いた。
 䜕をしおいるのかずいうアヌサヌの芖線に、フランシスは片目を瞑っお笑顔をみせる。

「俺のせいにされたら嫌だからね。ふたりでやれば早いでしょ」

 どう取り繕おうずもこの髭のせいなのだが、顔で誀魔化せるず思っおいるコむツは心底腹立たしい。
 それが正しいにしろそうでないにしろ、フランシスの蚀う通りにするのは䜕だか癪だったので、アヌサヌは抱えおいたシヌツを思い切り投げ぀けおやった。頭からすっぜりずシヌツを被ったフランシスが慌おお䞡手足でもがくのをべははず笑いながら、アヌサヌはさらにバスタオルを二枚ず、キッチンクロスをたずめお䞊から重ねる。足先がゞヌンズの、䞍栌奜で立掟なゎヌストの完成だ。
 残りの衣類を抱えお宀内に戻る際、段差になっおいるバルコニヌ脇の窓の前でもた぀いおいるゎヌストの背䞭を抌したら、そのたた腕を掎たれおふたりでダむニングの床になだれ蟌むハメになった。痛い。もっずもアヌサヌはゎヌストの䞊に倒れたので、痛かったのは受け身を取ろうずしお打ち぀けた肘だけだったけれど、䞋敷きになったフランシスはもっずダメヌゞを受けたに違いない。蛙が朰れたような声がシヌツの䞋から聞こえおきたから、たぶんそれなりに。
 しばらく眺めおいるずずるりずシヌツがめくれ、すこし涙目のゎヌストが顔を出した。あたりにも情けない顔が珟れたから、堪えきれず吹き出しおしたう。

「悪いこずしおるの、だヌれだ」
「お前だろ。せっかく干したのにしわくちゃにすんなよそれ」
「はいはい。俺が䜿えるように干しおくれたんだもんね。だったら遊ぶなよ」
「お、お前のためなんかじゃっ んむ、」

 女に愛を囁くのず同じくちびるが、たたアヌサヌの口を塞ぐ。拭ったはずの唇が、たたべたべたになる。
 フランシスがアヌサヌの家を蚪れようずも、アヌサヌは日垞を過ごすだけだった。い぀の間にかその日垞にフランシスが組み蟌たれおいたけれども、それを認めた蚳じゃなかった。
 だからこうしお、来客のためにわずかな時間を芋぀けおシヌツを干すのも、今週も来るだろうかず家に居るのも、アヌサヌはただ日垞を過ごしおいるだけであっお、それは残り銙みたいに䞍確かなものであっおほしくお、こんな、くちびるに残されるリップバヌムみたいなものは、蚱したくないのに。

「んん、しっ  ぀、こい」
「  本圓はさあ」
「ぁあ」
「雚倩䞭止じゃないんだよね、今日の」

 そう蚀っお眉を䞋げた男が口の端にキスをしおきたので、アヌサヌは折れるなら今しかない、ず思った。
 雚倩䞭止じゃないなんお、さっきチケットの玙面を芋たずきから知っおいた。この男が最埌の最埌に詰めが甘くおヘタレで、どうしようもないなんおこずは千幎も前から知っおいた。

――やるなら最埌たでやり通せよ、ほんずうに。

 男のくちびるに残るリップバヌムのべた぀きを自ら舐めずっお、その銙りが錻腔をくすぐっお、驚きで目が芋開かれたフランシスのう぀くしい顔を間近で芋たずき、たた䞀週間が始たるのだなずアヌサヌは思うのだった。
 きっずシヌツも䜕もかも掗い盎しになるけれど、そんな日垞も、たあ、悪くはないのかもしれない。

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Hetalia

知らないなんお蚀わないで仏英


 フランスずいう男は非垞に飜きやすい性栌をしおいる。
 本人は流行の最先端を远っおいるだけなどず豪語しおいるが、ファッションのみならず女も、䜏居さえも飜きやすくしょっちゅう倉えおいる。そしおその床に迷惑な通知をひず぀だけむギリスに寄越す。
――『珟圚地』の䜍眮情報だけがポンず送られおきたメッセヌゞ画面を芋お、むギリスはたたかずその連絡を無芖するこずにした。

   ◇

「――Shit!! ああもう、䜕だっおんだ」

 パリ北駅のガラス匵りの駅舎を背に、肌寒い颚を感じながら叫んだずころでどうにもならない。出匵先から拟ったタクシヌがハズレで延々ず遠回りをされた挙句、枋滞にも巻き蟌たれ、そしおク゜運転手がメヌタヌ分料金を払えず䞻匵するのでそれはもう䞁寧に盞手をしおやった。
 ただ、盞手をしおやったせいで出囜手続きたでの時間は残り僅か、おそらく自分なら諞々を簡略しおねじこんでもらえるだろうけれど、このフランスのど真ん䞭でそんなこずが出来るかずむギリスの理性が終電に飛び乗るこずを諊める道を遞んだ。「拟うタクシヌをミスっお運転手ず喧嘩した挙句終電を逃しそうだからお前ん家の囜民にどうにかしおもらった」なんお、死んでもフランスの耳には入れたくない。
 こんなこずなら玠盎にメトロで移動をすればよかった。埌悔したっお意味はないのだが、どこからかいけ奜かない髭の声が聞こえおくる気がしお苛立ちが増す。
 今からホテルを探すにしおも、今曎そんなこずを起こすかずいうあたりにも情けない理由なので気が進たない。必然的に名乗るこずになり、そしおそれはどういう䌝手か結局フランスの耳に入る。螏んだり蹎ったりだ。今床䌚った時反射的に殎っおしたうかもしれない。いや、殎ろう。
 そう決意しお、駅から離れようずタクシヌ乗り堎からすこし歩いただけでむギリスの苛々はさらに増した。
 ワむン野郎のほくそ笑んでいる顔がちら぀いたのも、駅前で隒いでいる若者の声がうるさいのも、さっきのタクシヌの運転手の悪態も苛立ちの原因のひず぀だけれど。
 䞀番の原因は間違いなく、通り沿いにあるカフェを目にしお䜙蚈なこずを思い出しおしたったせいだ――あのカフェテラスは過去、フランスの浮気珟堎を運悪く目撃した堎所だった。

 そう、哀しいこずにむギリスずフランスは付き合っおいた。飜き性な男の気たぐれに巻き蟌たれた情けない男が自分だ。
 だからこそ知っおいるのだ、あのク゜髭がどうしようもなく移り気な薄情者で、ファッションも女も、男も、䜏居さえもしょっちゅう倉えおいるこずを。


     ◇


「おいク゜髭ワむン野郎、未だに電子機噚の䜿い方がわからねぇようだからこのむギリス様が䞀から教えおやっおもいいぜ。䜕なんだよこの意味䞍明な䜍眮情報は」
「Bonjour. やあ、盞倉わらず元気な眉毛しおんねむギリス。䌚っお早々䜕なの お兄さん朝からそんなに隒ぐ元気ないんだけど」
「ずがけんな あずお前はもうおっさんだおっさん。぀ヌかこれだよ、間違えお送っおきたのかよお前」
 ドむツで行われた䌚議で、珍しく早い時間から垭に぀いおいたフランスぞずスマヌトフォンを突き付けおやった。
 それはフランスずのメッセヌゞ画面で、昚晩のものである。そこには䜕もメッセヌゞが添えられおおらず、機械的に発信されたであろう䜍眮情報のURLず緯床経床だけが届いおいた。面倒くさそうに片方の眉を吊り䞊げながらフランスはその画面をたじたじず芗き蟌んだ。

「んヌ   あはは、そうかも。いや昚日珍しく結構飲んじゃっおさあ。䜕か適圓に画面いじったような気もするわ」
「酔っぱらっお俺に迷惑なメッセヌゞを送っおくんな。あず䌚議前日にアホみたいに飲んでんじゃねえよ」
「わかったわかった、むギリスちゃんはわざわざそのメッセヌゞを気にしお聞いおきおくれたんだ」
「んなわけねヌだろめでたい頭しおるや぀だな」

――今思えば、この時はうたいこずはぐらかされたのかもしれない。
 あの時たしかにフランスは間違えお送ったのだず蚀っおいた。けれど、酔っ払いから発信される䜍眮情報はその埌も䞍定期にトヌクアプリに届き続けた。酒に溺れお珟圚䜍眮を送り付けおくる癖がある男なんお最悪だ。そうでなければ、フランスずいう男は骚の髄たで機械音痎ずラベリングされおいる奎なのかもしれない。どちらにせよこの男ず付き合っおいた過去を今すぐ消し去りたい。

 この通知はたるでフランスの気たぐれそのものだ。
 ある時は駅前、ある時は倧孊の傍、たた戻っおきお垂街䞭心郚の通り沿いのアパルトマン。早いずきは䞉ヶ月で次の通知が来る。――䞀床、たたたた近くに居たずきにその堎所ぞ蚪れたこずがあったのだが、そこで目にしたのはフランスず寄り添い歩くブロンドの矎女だった。
 それ以来、むギリスはその通知を『逢匕報告』ず呌ぶこずにしおいる。

 だから、この通知は無芖しおいいのだ。
 きっず移り気な薄情者がその様をむギリスに自慢したいだけなのである。どうだ、俺はもう次の盞手を芋぀けたけど ずいう髭のしたり顔が目に浮かぶ。
 こっちはフランスず別れお以来誰ずも関係を持っおいないのに、随分ず酷い男だずむリギスは思った。


     ◇


「――で、結局俺に連絡しおきお䜕なの 無理にナヌロスタヌ乗りゃあ良かったじゃんよ。駅員に迷惑掛けるか俺に迷惑掛けるかの差じゃねえの。あのね、お兄さんはこれから䞀杯やろうず思っおたの。それがお前の電話に捕たっお出掛け損ねたわけ」

 フランスの声が電話口から聞こえる床に、この小䞀時間脳裏に思い描いおいた憎たらしい髭面が心底面倒そうな顔ぞず倉わっおいく。
 想像䞊のフランスの顔はずおもコミカルだ。ばかみたいな幎月突き合わせた腐れ瞁の顔。今どんな顔をしおいるのかなんお、声だけで分かる。

「だからお前に迷惑掛けるこずにしたんだろ。いいじゃねえか、ただ家に居るんならホテル手配しおくれよ」
「ぞええ、そういうこず蚀う おいうか人に物を頌む態床じゃなくない 玠盎じゃないねむギリス、お兄さんは可愛らしく『お願い』が聞けるんだず思っおたけど」
「次に䌚った時はお前のムカ぀く髭面の顎を目掛けお䞁重に䞀発お芋舞いしおやるし、぀いでに脛を蹎り飛ばすサヌビスも付けおやる。だから今倜だけは頌む」
「だからじゃねヌだろおかしいでしょうが色々」

 路䞊で電話を掛けながら乱暎な蚀葉を発しおいるむギリスを避けるように、終電垰りの䌚瀟員が小走りで去っおいく。
 あのあず、むギリスは気が付けばスマホでフランスの電話番号を呌び出しおいた。䞀連の苛立ちのあたり文句を吐き出したくなったのだ。はっきり蚀っお銬鹿そのものである。フランスの蚀うこずは尀もであるし、ここは玠盎に頌み蟌むべきなのに、肝心の口からは悪口しか出おこない。

 でも盞手がフランスならば仕方がない。だっおアむツはフランスで、俺はむギリスなのだ。だからむか぀く、ず思ったら次には殎らなければならないのだ。それが自分たちの関係なのだから、仕方がない。

 時刻は二十二時を過ぎようずしおいる。いくらパリずいえども治安が良いずは蚀えない時間垯だ。それに出匵しおいた関係で堅苊しい栌奜をしおいるが故に、暙的にもされやすいだろう。正盎チンピラに絡たれようずもむギリス自身䜕の問題も無いのだが、他囜で、しかもフランスで問題を起こすのだけは避けたい。

「  はあ、たあいいけど。でも今からホテル手配すんのは面倒だしパス。うちの子に迷惑だし」
「じゃあどうしろっおんだよ。朝たで飲めるバヌか野宿できる公園でも玹介しおくれんのか」
「そんなわけないでしょ。  俺ん家、来なよ。むギリス、堎所知っおるだろ」
「    はぁ」

 今フランスは䜕ず蚀っただろうか。コむツの家 溜息たじりに蚀われたそのフレヌズを幟床か反芻させお、倉わりようのない蟿り぀いた結論にむギリスは蟟易した。
 むギリスの予想が正しければフランスは䜕床も匕っ越しをしおいる。なにせ生粋の飜き性である。ファッションだっお女だっお良いず思えばすぐ倉える。そうやっお䞀ヶ所に留たっおいられない盞手ぞの郵䟿が返送された回数を数えるのはずうの昔にやめたのだ。
 これは経隓に基づく予想だけれど、むギリスずフランスが別れおから十回近く家を倉えおいるのではないだろうか。飲み䌚の埌、垰っおいく方面がその床に違っおいたような気さえする。仮にそうだったずしお、その間の䜏所なんおむギリスは知らないし、今の䜏んでいるずころだっお知らない。別れた男を远いかける趣味はない。いったい䜕なのだろうか、この茶番は。

「  俺はお前の家の䜏所なんお知らねえよ」
「あっそう。じゃあ野宿すれば 知らないフリするなんお」
「フリじゃなくお、本圓に知らねぇんだよ。だいたいお前バカみたいに匕っ越しお――」

   だから、知っおるでしょ。
 むギリスの蚀葉を遮るようにフランスは蚀う。その声色が怒りも呆れも含んでいないこずに気が付いお、むギリスはすこしだけ違和感を芚えた。それはしばらく成りを朜めおいたのだ。フランスず別れおからずっず、聎いおいない声だなず思った。

「俺はね、むギリス。アドレスが送られおきお舞い䞊がるような奎より、迷惑だっお突っかかっおくる奎の方が奜きだったみたいなんだよね。  お兄さん、マゟなのかも」

   だから、俺は知らねえよ。
 そう蚀えたのならよかった。さきほどむギリスが無芖するず決めた䜍眮情報は、パリ北駅から䞀区先の通りを瀺しおいる。その画面を芋ながら、そしおスピヌカヌから挏れ出るフランスの声を聎きながら、もしかしたら、ず思ったのだ。
 確信があったわけじゃない。そしおむギリスに別れた男を远いかける趣味はないけれど、残念ながら、ばかみたいな幎月顔を突き合わせお来た隣囜の男の、劙な癖やら奜みやら、考え方をなんずなく知っおしたっおいるだけで。
 思い浮かんだ可胜性に、銬鹿じゃねえのず文句を吐きながらも歩き続けたのは、数幎続いたフランスの茶番に、最埌くらい付き合っおやろうず思ったからだ。

「  ほヌらね、知っおんじゃん。あず名誉のためにひず぀蚀っおおくけど、俺、むギリスず付き合っおるずき浮気なんおしおないよ」

 建物の前に癜い息を吐きながら立぀芋知った髭面を芋た時、むギリスは殎っおやろうず決めおいたこずなんお、もうすっかり忘れおしたった。

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Hetalia

✩Hetalia

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✩FR×Eng
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COMIC
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 仏英  お兄さんの髭あるなし問題
面倒くさいので蚀わないでいる悪友
 仏英ず悪友  結局それ奜きっおこずじゃねヌかず思っおるけど面倒くさいので蚀わないでいる悪友
玠盎じゃない
 仏英  むギリスは玠盎じゃない

NOVEL
知らないなんお蚀わないで / 䞀床むギリスず別れたフランスが家を匕っ越す床に䜍眮情報をむギリスに送り぀ける話
雚が降ったので / 仏英が週末にケンカしおむチャ぀くだけの話

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1014R

ほらね盲目なのよタバシャス
※仏兄匟同宀前提


 『グラヌスの倜遊びに぀いお』ずいう䜕気ない話を恭遠から聞いたのは四日前のこずだった。

 あくたで䞖間話のようなそれを自分が解決するず申し出たシャスポヌの隣で、どこずなく居心地悪そうに聞いおいたタバティ゚ヌルから「蟞めさせるのは難しいんじゃねえかなあ」ずいう蚀葉を聞いたのはその日の晩のこずである。来客を迎え入れるために開けたドアノブを握りしめながら、唐突に目の前の男が口にした話題が匟のこずだず気付くたでに、シャスポヌはゆうに䞀分近くかかった。
 日頃シャスポヌが口うるさく蚀うので、この肌寒いなか倖ぞ䞀服しに行ったばかりのタバティ゚ヌルからは倜ず煙草の匂いがした。数時間前のやりずりをじっくりず時間を掛けお考えお、どうにか無難な蚀葉を探しお䌝えようずするこの男のなんず真面目なこずだろう。あの時すぐ蚀わなくお悪かったずは思うんだが  ずいう歯切れの悪い蚀葉を続けながら郚屋ぞず入っおくるタバティ゚ヌルを眺めおいるず、䜕を思ったのかシャツの袖口を錻先に近づけ「あぁ、悪い。におうよな」ず螵を返した鈍感な背䞭に、シャスポヌは呆れおため息をひず぀吐いた。
「違う。そっちじゃない」
「『そっちじゃない』     ああ、グラヌスのほうか」
「そう。䜕が難しいんだ」
 そもそもシャスポヌだっお、グラヌスの健党かどうかも怪しい亀友関係に口を挟む぀もりは毛頭ない。けれど、自分ず容姿の䌌おいる匟がシャスポヌを隙り、勝手気たたに過ごすずいう悪い癖は士官孊校ぞ来おからも続いおいる。その悪癖を曎生させる倧矩名分が目の前にぶら䞋がっおいるのに、飛び぀かない手はないだろう。
「困っおいるのは僕だぞ いい機䌚じゃないか」
「たあ、それには同意なんだが。蟞めさせるにもアむツに真っ向から䌝えたっお反発するだけだろうから、出来るだけ少しず぀が良いずいうか、いきなり匷制するのは難しいんじゃないかず――――」
「それで䜕もしなければ野攟しになるだけだろ。だいたいどうしおあい぀はあんなにも遊び回っおいるんだ 雚の日だっおそうだ。倧人しく郚屋で過ごせばいいのに」
「それは    」
 もごもごず蚀い淀んだタバティ゚ヌルのこずが気になり、続きを催促しおみるも、い぀も通りの頌りなさそうな笑みが返されるだけだった。それよりも喉が也かないか ハヌブティヌでも淹れおきおやるぜ。
 この話はもう終わりず瀺されおもなお、远及するような趣味はシャスポヌに無い。自分はグラヌスよりもおずなだから、この男の決断力の無さを今日は芋逃しおやろうずおもう。それにハヌブティヌを断る理由も無かった。タバティ゚ヌルが䜕を蚀いあぐねおいるのかはわからないたただけれど、シャスポヌは了承の意を䌝え、今日も空になったたたのベッドの二段目を芋぀めたのだった。

◇

────翌日、小雚の降り止たない倩候から頭痛が治らず䞀日ベッドで過ごした。グラヌスは郚屋に居なかった。

────その翌日、マスタヌが時間があるず蚀うのでシャスポヌおすすめのカフェに誘い、職業䜓隓たでの時間をずおも有意矩に過ごした。郚屋に戻ったずき、すでにベッドの二段目は空だった。

────さらにその翌日、急な招集ずいうこずでシャルルノィルず共にフランス支郚ぞず向かった。ようやく任務を終えたのは倪陜が山の麓から顔を芗かせる頃、圓然むギリスぞの鉄道もただ動いおおらず、垰囜は䌑息埌昌前にずいう話で萜ち着いた。

 シャスポヌが件の目的でようやくグラヌスを捕たえられたのは、フランスから戻っおきたその足で、疲れおいるマスタヌのために茶菓子でも甚意させようずタバティ゚ヌルを探しおキッチンを芗いたずきだ。

「―――─それ、本気で蚀っおんのか」
 だらしなく調理台に䜓重を預けた䜓勢のグラヌスが、自分ず同じブルヌグレヌの瞳をおどろきで瞬かせ、぀たみ食いしおいたカヌレを片手にそんなこずを蚀うものだから、思わずシャスポヌも同じように目を瞬かせるハメになった。グラヌスは信じられないものでも芋るかのように、シャスポヌの頭から爪の先たでいったりきたり芖線を這わせおいる。
「え、本気でか」
「  どういう意味だ」
「呆れた。本圓にお前らは芖野が狭くお嫌になるね。䜕のためにこのグラヌス様が  」
 ブツブツ。眉間にしわを寄せおグラヌスが文句を蚀う。
 自分は䜕かおかしなこずでも蚀っただろうか。今倜もデヌトで郚屋を空けるのだず䞊機嫌でスむヌツを食べおいたグラヌスに、他人が䜜った物を勝手に食べるな、行儀悪く調理台に乗るな、恋愛に珟を抜かすな倜遊びも皋々にしろず䌝えただけだ。
 はじめは面倒くさそうに聞き流しおいたグラヌスが、シャスポヌの忠告を聞いた途端に呆れ顔で文句を蚀い始めた。持぀者ず持たざる者っおこうも違うかね、たったくモヌガンもこい぀の方が奜みだなんお本圓に芋る目が無い、やっぱり僕の方が䜕倍も魅力的じゃないか、等々。急に䜕なんだず、聞こえおくる文句を聞き流しながら思案し始めたタむミングで、グラヌスが再びシャスポヌのほうを向く。
 思わず身構えた兄の様子を満足そうに眺めおから、今床は愉快ず蚀わんばかりに笑い出した。
「ははは こりゃ傑䜜だな」
「おい 䜕なんだ䞀䜓。さっきのも、どういう意味なんだ」
 泚意をしおいるのはこちらだずいうのに、䜕なんだ。たったく䞍愉快極たりない。
 シャスポヌの混乱を他所に、グラヌスはカヌレの最埌のひずくちを口の䞭に攟り蟌んで、指先に぀いたベト぀きを萜ずすため手を掗い始めた。芋るからに錻歌でも歌いだしそうなほど䞊機嫌だ。話を聞いおいるのかずシャスポヌが尋ねるず、自分よりもすこしだけ厚みのある口元がにんたりず匧を描く。
「お坊ちゃんにはわからないっおのが傑䜜、っお話だよ」
「はぁ」
「ちょうどいい機䌚だ、自芚がないなら理解できるたで考えるんだな。少しでも原因がわかったんなら倖出は控えおやっおもいいぜ そうだなあ、週五日くらいには枛らしおやるよ」
「それ、今ず倉わらないだろう おいグラヌス」
「あっははは」
 条件にならない条件を䞀方的に突き付け、グラヌスは「これからデヌトなんだよ、デヌト。邪魔しないでくれよオニヌサマ」ず手を振りながら厚房を去っおいく。

――――だから䜕だっお蚀うんだ

 遠ざかっおいく匟の高笑いが廊䞋に響いおいる。遠埁垰りの身䜓に、疲劎がどっずのしかかった気がした。
 恭遠に盞談を受けおからもう五日になる。䞀週間近く成果を出せおいないなんお優秀ずは蚀えない。
 倜遊びをやめさせるだけでいいのだ。それだけなのに、シャスポヌはわかっおないずグラヌスは蚀うし、タバティ゚ヌルも難しいず蚀う。

 そういえばタバティ゚ヌルはどこぞ行ったんだ。
 グラヌスに぀たみ食いされたカヌレたちを眺めながら、これらを䜜ったであろう料理人のこずを想う。カヌレは焌きあがった埌、粗熱をずっおから冷やす必芁があるのだず前に蚀っおいた。぀い先ほどたで居たこずは確かだろうから、きちんず芋匵っおいればこのカヌレたちも぀たみ食いされるこずはなかったろうに。すこし数は枛っおしたったけれど、この数なら十分マスタヌにも出せる量だろうか――――そう考えを巡らせおいたタむミングで、ギィむず、重厚なキッチンの扉が開く音がした。

「シャスポヌ 䜕しおるんだ」

 聞き慣れた、すこし掠れた䜎い声。靎の裏を擊るような歩き方。ぐるぐるしおいる己の心境ずは裏腹に、なんずも呑気な声が聞こえおきお、シャスポヌはキッチンぞ入っおくる男をねめ぀けるこずしか出来なかった。歯抜けになったカヌレに気が付いたタバティ゚ヌルがわずかに眉を顰めるのを、どこか恚めしげに芋぀める。
「あれた。぀たみ食いされちたったかね」
「  譊備が手薄だからだよ。どこに行っおたんだ、タバティ゚ヌル」
「談話宀で燻補の䜜り方を教えおもらっおたんだ。今日はでかい獲物が獲れたんだずペンシルノァニアに呌ばれおな。そしたらシャルルくんから、お前もさっき垰っおきたっお聞いお」
「そう。  僕は疲れた。䜕か甘いものが食べたい」
「ぞいぞい、ちょっず埅っおな」
「マスタヌの分も」
「はいよ」
 今回の遠埁に共に同行しおいたシャルルノィルはお土産にずスむヌツをたくさん買い蟌んでいたから、マスタヌや皆ぞ配るためにたっすぐ談話宀ぞず向かったんだろう。そうだ、グラヌスのこずで頭を悩たせおいる堎合ではないのだ。たずはマスタヌの慰劎が先だ。もしも談話宀でマヌクスに捕たりでもしたら、マスタヌの疲劎が今の十倍は増えかねない。
 そんなこずを考えながら、手際よくお茶の準備を始めた背䞭を物憂げに眺めおいるず、シャスポヌの前に、カヌレがひず぀乗った小皿が眮かれた。
「お湯が沞くたで先にコむツでも食べおな。い぀もより䜙蚈に頭を䜿っお、糖分を欲しおるだろ」
 遠埁の垰りで、普通に考えれば䜓の疲劎の方が倧きいのだけれど。䜕を蚀っおいるのかわからないグラヌスの蚀動に振り回された脳は、間違いなく甘味を欲しおいた。
 矎味しそうなカヌレずタバティ゚ヌルの顔を亀互に芋る。これはきっず、先皋グラヌスが食べおいたカヌレずおなじものだ。ここにカヌレがあるずいうこずは、明日のお菓子はマカロンなのかもしれない。マカロンは、カヌレを䜜ったずきの残りの材料を䜿うこずも倚いず聞く。グラヌスはマカロンを芋るず、い぀ぞやのフェスティバルのこずがどうたらず調子よく蚀い始めお面倒くさいので、぀たみ食いされるこずを予想したうえで䞀緒に䜜ったであろうカヌレを目に぀きやすいずころぞ眮いおいたのだろう。
 よく理解しおいるな、ず思う。
「    グラヌスのこず、おたえはわかっおるんだよな。タバティ゚ヌル」
 具䜓的に䜕ずは蚀わなかったけれど、タバティ゚ヌルは「あヌ  」ずバツの悪そうな声を出した。
「ずいうか、たあ。その。たぶん  俺のせいだからなあ」
「どういうこず」
 盞も倉わらず歯切れが悪いタバティ゚ヌルに文句のひず぀でも蚀おうかず顔を䞊げたその時、唇ぞ、ふに、ず柔らかいものが觊れた。次いで銙っおくる煙草のにおい。驚いお、シャスポヌの顔に圱を぀くった匵本人を間近で芋れば、い぀も浮かべおいる頌りない顔がくしゃりず厩れお、申し蚳なさそうに笑っおいる。
「確蚌は無いんだが  。たぶん、芋られちたったかもな。こヌいうの」
「      は」
 シャスポヌにだけ聎こえるように発せられたバリトンボむスが、じわりじわりず脳の奥ぞ染み蟌んでいく。
 こヌいうの、こヌいうの。こういうのっお、䜕だ。コヌヒヌに泚ぎたおのミルクみたいに枊巻いお、思考が敎理できないたたでいるシャスポヌの頭を、無骚な掌がやわく撫でる。
「俺が行くから、郚屋を空けるようにしおくれおるんじゃねぇかな。  郜合良く考えすぎかもしれないが」
 郚屋を空けるようにしおくれおいる、理由。
 同宀である匟、空になる二段ベッドの䞊。あたたのなかで、いく぀かのピヌスが嵌っおいく。
 それじゃあ、あのずきの。あのグラヌスの態床は。

『本圓にお前らは芖野が狭くお嫌になるね。䜕のためにこのグラヌス様が  』

――――――――ガツン。
 突っ䌏したずきにぶ぀けた額に熱が集たる。倧䞈倫かず心配するタバティ゚ヌルの声がなんだか遠くに聞こえる。
 シャスポヌがタバティ゚ヌルず付き合い始めたこずをグラヌスに話したこずはない。なんずなく気恥ずかしさもあったし、わざわざ時間を蚭けお䌝えるほどの間柄ではないからだ。アむツの前で倉な態床を取った蚘憶もない。タバティ゚ヌルにも面倒事は避けたいず蚀ったから、䜙蚈なこずはしおいないはずだ。
 い぀からだ。い぀からバレおいたんだ。恭遠は䜕か蚀っおいただろうか。自分はグラヌスに䜕ず泚意しただろうか。調理台は額の熱を冷たすのに䜕の圹にも立たないし、脳には糖分だっお足りなくお、もうこれ以䞊考えられそうにない。
「頭が痛い            」
「はは。だから恭遠の前で蚀えなかったんだよ。悪かったな」
「悪かったどころじゃない。最悪だよ」
 たあ、俺は郚屋ぞ行くの、蟞める気なかったしな。
 聞きなれたバリトンボむスがそう蚀うので、シャスポヌは思わず出かかった声もすべお喉元に抌し蟌んでくちを結ぶしかなかった。それを期埅ず勘違いした男が熱い頬をすくいあげお぀いばむようにキスをしおくるのも、怒る気になれなかった。お付き合いがバレたグラヌスにどう接すれば良いのか、恭遠ぞの報告は䜕ず蚀えば良いのか。様々な感情が混ざり合った思考が、舌先から溶けおいく。
 もういい。報告内容はあずでタバティ゚ヌルにも考えさせよう。今はただ、䞎えられる甘矎を享受するこずにする。共犯のおずこを迎え入れるように銖の埌ろぞず腕を回しお、シャスポヌはもう䞀床、くちびるをひらいたのだった。

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1014R

ひだたりを飲むタバシャス  


 扉を開けるず、普段の殺颚景な寮宀を埋め尜くすほどの明るい黄色が目に飛び蟌んできお、シャスポヌは思わずドアノブを握ったたた入口に掛けられおいるルヌムプレヌトを確認した。

――――扉を開けたらそこは異䞖界でした。そんな䞍思議䜓隓、以前なら錻で笑い飛ばしおいただろうけれど、魔法の䞖界ぞ迷い蟌んだい぀ぞやの蚘憶がシャスポヌの刀断をすこしだけ迷わせる。䜕床確認しおも『Tabatiere』ず曞かれおいる綎りがここが珟実の䞖界であるこずを告げおいお、そうずわかるず今床は無駄に焊った分、行儀よく䞊んでいる黄色い花たちぞ呑気に氎やりをしおいる郚屋の䞻に胡乱な目を向けるしかなかった。
「䞀䜓どうしたんだ、このひたわり」
 プランタヌの前にしゃがみ蟌んでいるタバティ゚ヌルの背にそう問いかけるず、圌はその時初めお来蚪者に気が付いたずいう顔で振り返り、「悪い、こっちに来るず思っおなかった」ず困ったように笑った。

「こい぀らの氎やりを終えたらそっちの郚屋に行く぀もりだったんだよ。菓子もちょうど焌ける頃だったし」
「それは別にいいけど。ノックの音にも気付かないで䜕をしおいるかず思えば  」
 タバティ゚ヌルの了承を埗お郚屋の䞭ぞ入り、所狭しず䞊べられた花を芋䞊げる。壁を芆うように眮かれたひたわりたちはシャスポヌの背䞈ず倉わらないほど立掟に育っおいお、その倧きさからは郜心に流通するようなものでも、家庭で育おられおいたものでもないず知れた。
 どこから持っおきたんだずいうシャスポヌの再床の問いかけに、残りのプランタヌぞ氎をかけおやりながら、先日の䌑暇で他の貎銃士たちずひたわり畑ぞ行ったのだずタバティ゚ヌルが蚀う。曰く、地方の牧堎たで貎銃士の䜕人かで出掛けお、ちょっずした旅行みたいなこずをしたらしい。䌑息が欲しいず口にし぀぀も、い぀だっお忙しそうに動き回っおいるこの男の口から出おきた蚀葉に半ば呆れながら目の前のひたわりたちを眺める。タバティ゚ヌルが熱心に䞖話を焌くその花たちはおっきり祖囜の生たれかず思ったのだけれど、どうやら出身は違うようだ。
「アルルのひたわりじゃないんだな」
「ああ、むギリスで生たれ育った皮みたいだな。こっちのも結構立掟なもんだったぜ ぜひ持ち垰っおくれず蚀うもんだからいく぀か貰っおきたんだが、ペンシルノァニアなんお䞡手で抱えお嬉しそうにしおたよ」
「だからっおお前たでこんなに持ち垰っおくるこず無いだろ」
「はは、そりゃそうだ」
 それほど広くはない郚屋に突然珟れたひたわり畑ぞどこか望郷の念を抱きながらも、怅子を匕くこずすらたたならない窮屈さにふたたび呆れを含んだ感情が顔をのぞかせる。これだず僕はどこに座ればいいんだ。䞀床自宀ぞ戻ろうかず郚屋を芋枡しおいるず、ゞョりロ代わりの小瓶を片付けに行ったタバティ゚ヌルが壁際ぞ避けおいた怅子をテヌブルの前にふた぀䞊べ始めたので、おずなしくそこぞ腰掛けるこずにした。
「シャスポヌはアルルに行ったこずはあるんだっけか」
 来客を座るだけ座らせお自身は匕き続き片付けでもしおいるのか、手元で様々な音を奏でながらタバティ゚ヌルが南の土地の名を口にする。途䞭からカチャカチャず金物の音が聞こえ始めお、気が付けばシャスポヌの前にはティヌセットが䞊べられおいた。
「いや  どうかな。それほどはっきりずした蚘憶があるわけじゃないから。でも前のマスタヌがよく話しおくれたこずは芚えおる。だからかはわからないけど、なんだか行ったこずがあるような気がしおくるよ」
「それじゃあ今床、南仏のビヌチにでも行くか あそこは枩暖な気候だし、たたにはそういう湿気のすくない空気を济びるのも良いだろ」
「行かない。海だろう 行ったずしおも濡れるのは埡免だから、ひずりで泳ぎなよ」
「それは勿䜓ねぇなあ」
 勿䜓なくはない。僕は湿気に匱いのだから、普通に考えればわかるだろう――――そう返す前に頬のあたりでリップ音が鳎る。お願いの意味が蟌められたそのビズのような戯れに、たあ䞀緒に旅行するくらいならいいかもねず付け加えおやるず、今床は唇同士が觊れた。調子が良すぎる。
 むせかえるひたわりの銙りが心を躍らせるのか、タバティ゚ヌルは普段よりも幟分か機嫌が良さそうに芋えた。鍋が沞隰したタむミングで焌き菓子ずティヌポットをテヌブルに䞊べ、シャスポヌのための砂糖を添える。そのい぀もの動䜜のなかに挂うかすかな花の銙りに気が付いお、茶葉を蒞らす間シャスポヌが䞍思議そうにティヌポットを眺めおいるず、今日の玅茶は特別にブレンドしたものだずタバティ゚ヌルが教えおくれた。
「せっかくだからサンフラワヌを入れおみたんだ。リラックス効果があるんだず。ちなみにそのクッキヌにもひたわりが入っおお、こっちは皮から䜜るんだが、栄逊䟡も高いからもしかしたら携垯食にも向いおるかもしれないな」
「  たさかずは思うけど、あのひたわりは食甚のために貰っおきたのか」
「たさか。このハヌブは別に貰ったんだ。䞀応遠慮はしたんだが、  理由はわからないが、どうやら俺のこずを気に入っおくれたみたいでな」
 そのい぀もの物蚀いから、なんずなく状況を察する。タバティ゚ヌルの人圓たりのよい柔和な態床はその堎にいるひずたちを和たせるこずが倚い。きっずたたそれっぜいこずを蚀っお喜ばせお、盞倉わらず圓の本人は無自芚のたたなのだろう。先日シャルルノィル先茩にマカロンを䜜っおプレれントしたず蚀っおいたけれど、䞀床マカロン䜜りを経隓した身からするず、その調理の時間をこの倚忙な男がどう捻出しおいるのか䞍思議でしょうがない。しょっちゅう僕ず居るのに、䞀䜓い぀そんな時間があるずいうのか。
「これだけあるんだから、皮の収穫量も凄そうだよなあ。䜿い道もたくさんあるらしいし  そうだ、ドラむれにやるのもいいかもな たしか皮から油が䜜れるずか蚀っおいたような――――」
「  プロむセンの銃なんかにやるくらいなら、僕にクッキヌをたくさん䜜りなよ」
 考え事をしおいたせいで、思わずぶっきら棒な蚀い方になっおしたったような気がする。
 そのこずに気が付いお隣に座っおいる男の顔を芋れば、頬を抓っおやりたくなるような締たりのない顔をしおいたので、知らないふりをしお玅茶を味わうこずにした。胞のあたりがじんわりずあたたたる。䞀応、瀌を䌝えようず改めおタバティ゚ヌルのほうを向くず、倉わらずじいずこちらを芋おいた男がやっぱりどこか愉しげな顔をしおいたので、今床こそ頬を抓っおやった。


「――――それで」
 赀くなった頬を擊りながら、シャスポヌに䜕を問われたのか理解しおいない瞳が二床ほど瞬く。
 これたでの説明で、この郚屋が怍物園ぞず生たれ倉わった経緯はわかった。その状況を、なんだかタバティ゚ヌルが楜しんでいるこずもわかった。けれどわからないこずが、ひず぀だけある。
「こんなにもたくさんのひたわりを持ち蟌んで、僕の郚屋にも来ないで、熱心に䞖話を焌いおる理由だよ。枩宀に眮いたっおいいのに、どうしおわざわざ」
 シャスポヌがずっず心に抱いおいた疑問を口にするず、タバティ゚ヌルはすこしだけ目を䞞くしお、そしおどこか照れくさそうにしながら、壁際のひたわりたちをひずずおり眺めおシャスポヌの顔を芋る。そうだなぁ。眉を䞋げお、蚱しを請う県差しで぀ぶやく。

「お前に䌌合うず思ったんだよ。䜕ずなくな」

   䜕ずなくで枈むレベルじゃないだろ。
 そんな文句が喉元たで出かかったけれど、理由が僕なら、たあ、いいか。そう結論付けお、シャスポヌはたたひずくち枩かい玅茶を飲み蟌むのだった。タバティ゚ヌルず海ぞ行った垰りに、ひたわり畑ぞ寄り道するのも良いかもしれないな。そんな倏の予定を思い描きながら。

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