Reus


DCMK

内緒のインテンション/白快


「この暑いなかで、よくもまあ買い出しになんて行こうとするものだね。感心するよ」
「あーのーなあ……。てめーの仕事だろうが。それに、道わかんねーっつうおまえのためにわざわざ俺がついてきてやってんだからありがたく思えよ」
「別にそんなことは誰も言っていないのだけど……。まあそうだね、アリガトウ」
「……きもちぜんっぜんこもってねーだろ、それ」
うだるような夏の日差しがコンクリートを照りつけて、その年の猛暑日の記録を更新したかのような暑い日だった。文化祭が近づくなか、備品の買い出しにと頼まれたはいいものの、前年度の終わりに転校してきた自分が、この学校周辺でどこが安く、どこが品揃え豊富かなど知るわけもなく。それでも責任を果たす義務はあるわけで、ふと思いついたまま彼に声をかけてみたのだ。「ついでにクラスの皆さんの分の差し入れでも買おうかと思うんだが、どうかな、君も」。

「俺にウマの魂胆がわからないとでも思ったか」
「さあ、そう思いたければ思うといい。あまりにも疑われるようだと、僕も気分を害してお菓子を買う気も失せてしまうかもしれないけれど」
「さあーって次行くか、次!」
「本当に現金な人だな、君は。」
口コミという情報がもたらすものは大きい。人が関することはやはり人から訊かなければわからないものだ。「こっちこっち、ここの路地裏抜けてくほうがはやいんだ。あそこの交差点は信号待ちがなげーからな」などなどエトセトラ。その点に関しては、この黒羽快斗という男をつれていくメリットはあったのだ。
それでも。
それでも、まあ。他意がないかと言われれば嘘になるけれど。

「――ったく、これひとりで買うつもりだったのかよ! どんだけ頼まれてんだよオメーは」
ガシャン。黒羽が勢いをつけて持ち直したビニール袋の中身が、豪快に鳴る。
「ああ、いや……。ついでに行くからと何人かに声をかけたことは、かけたけれど」
「っ馬鹿か! こンの白馬鹿、だからこんなに多いのか」
いくつかの店を回って、買い物を済ませた。文化祭の予定が乱立するこの時期に、百円ショップのペンキ類が全滅だったことは予想出来ていたものの、やはり痛かった。ホームセンターで購入したこれが、今回一番の出費だろう。ただしそれは、白馬の金銭感覚による感想ではなく、会計係に提示された金額と照らし合わせた結果である。「俺はこういうので塗るよりスプレーのがいいとおもうんだけどさあ。看板描くやつがどうしても、つってた気がするし」「なら、そちらの小さい方でいいのでは」「……まあ、そうか。そんなに塗るわけでもなさそーだったし」。
そうして買ったペンキ缶がかちゃかちゃと鳴る。右手にビニールが食いこんだのか、黒羽はぐちぐち言いながら左手に持ち替えて、やっぱり諦めて一度その場におろした。まったくさあ、とけだるげに手をぶらぶらさせる。
「そのフェミニスト精神は社交場で発揮しろよ」
「おや。よく女性相手だとわかったね」
「おまえが進んで声かけるとしたら女子だろ。男には逆に頼まれる」
「それはなかなか。察しが良い、と言っておこうか……。ああ、持つよ。自分で持てない分を引き受けるほど、僕は計画性がない訳ではないんでね」
「え、あ、おい」
持ち主が変われども、先ほどとおなじようにビニールがこすれあって音が鳴る。予想の範囲内の重さだ。文化祭の備品であれば、大きさに反してそこまで重さがあるものはない。ただ、かさばるから持ち運びが面倒なだけだ。
休憩だといってコンクリートの上に置いていた買い物袋をいくつか持ち上げると、黒羽は俺も持つに決まってんだろ、と白馬が手に持っていたビニール袋を握った。どうにも彼の負けず嫌いは、わかりやすいところで発揮されるらしい。
「だから、そのフェミニストは社交場で発揮しろって。おら、帰んぞ」
「別に君はレディじゃあないだろう? なにを怒って……ああ、その前に、そこのコンビニに寄ろうか」
「そーいう意味じゃねえっての。って、ああー! そうだ、そうじゃん! 差し入れ!
おい白馬、ついでに俺にアイス奢れ」
「差し入れの分でいいじゃないか」
「バーロォ、買い出し付き合った対価に決まってんだろ」
まったく、仕方ないな。折れると、黒羽は嬉しそうにコンビニに走っていった。ちゃんと白馬の手から荷物をすこし取っていくあたり、黒羽も自分の言ったことは守る主義なんだろう。彼らしいといえばそうだが、抜け目ないともいえる。
隙があるようで、ないのだ。ないように見えて、あるときもあるのだけれど。
コンビニのレジカゴにがこがことお菓子と飲み物をつっこんでから、黒羽はレジ前のアイスケースから迷わずにチョコレートアイスを取り出した。
「なるほど、怪盗キッドはチョコレートアイスが好き、ね」
「だぁーもう、うるっせーな。これは俺の好みだ、あいつは関係ねえ」
「そんなに強がらなくても」
「お前の頭はどこまでおめでてーんだ」
こんなやりとりももう慣れた。答えを提示されることはないとわかっていてなぜ問うのか、そんな根本的なものには見て見ぬふりをしている。
「まあきっと……楽しいんでしょうね」
「あ? なに、なんか言ったか」
「ええ、黒羽君が至極単純でおもしろい、と」
「ほぉ……。言うじゃねーか馬のくせに……。じゃ、これよろしく」
「あ、こら! 待ちたまえ!」
コンビニで買った分をその場に置き去りにして、黒羽はさっさと歩きだす。
白馬がその背をしばらく眺め、「黒羽快斗の好みはチョコレートアイス、ね」とつぶやいたことを、彼はきっと知らない。

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