Reus


DCMK

イミテーション・レクイエム/白快


 いくつかの色を見ているうちに、勘弁してくれ、と黒羽は思うようになった。あれでもない、これもすこし違う。その微妙な差を認識してしまう、自分自身が嫌だった。
「まあ、一日くらいなら、平気だろーけどよ」
 東京とロンドンの距離がいくらあると思ってる。黒羽快斗は手元の作業をやめないまま、頭の片隅で時差と距離、その他もろもろの計算をし始めて、すぐにやめた。わかりきったことを何度くりかえしたって、意味はない。
 どちらかというと、イギリスで大半を過ごしているような思いやりのない野郎に遠慮する必要なんてない、という判断で。
彼の立場はどうにもうってつけだった。探偵で、それなりに名が知れていて、情報も入手しやすく、それでいて他の探偵たちには適度に距離がある。
それだけの理由だ。他意はない。もしこれで、帰国した白馬に何と言われようが、それは後の祭りだ。どうにでもはぐらかすことが出来るだろう。
 もうすぐ昼時だった。そういう時の為にといくつか取り寄せておいたサンプルのなかから、自分のお目当ての色を探してみても一向に納得いかず。そうしてただ時間だけが過ぎていた。
そんな悠長なことしていられないのもわかってはいるのだけれど。どうにも譲れないでいる自分が、いやだった。知ってしまっている、記憶してしまっている、そして違う色を見て、嫌だと思ってしまう自分がいるのが嫌だった。
 どうしてって、まるでそんな。
「ダイスキとか言ってるようなもんじゃねーか。――ないない。アリエナイ。」
 やっぱり本物には敵わないな、とカラーコンタクトのひとつを手に取ってみる。頭の中で勝手に比較されたそのホンモノは、光の加減によってわずかに色が変わって、そんなところだけは、黒羽はおもしろいなあ、と興味を抱いてた。
 というか、もっとうまく作れってんだ。まるでカラーコンタクトいれてます、みたいなもので変装なんてしてられっか。すこしだけ悪態をついて、それからいろいろと、変身タイム。
 我ながら上出来だ。鏡に映った己の顔を見て数秒、目線の高さや、肩の広さだとか、すこしずつ見つけてしまう些細な点をどうするか悩んで、思い浮かべていた比較対象をかき消した。
 そうじゃないだろ、黒羽快斗。変装とは、見た目が全てじゃあない。立ち振る舞いや、指先の流れ、目配せ方だとか、言葉づかい。そういうものが物を言う。
 それなら任せろ、と言おうとして――黒羽はまた、勘弁してくれ、と思った。
「まるであいつのことはよく知っていますだなんて、そんなワケねーから。いやマジで。」
 誰に言い訳しているのかもわからぬまま、後日、質問責めのためになにかしらコンタクトを取ってくるであろう顔見知りのことを考えて。そうしてそれが目の前の鏡にあたりまえのように映っているものだから、思わず黒羽は笑った。
 じゃーな、ヘボ探偵。今日おまえが日本にいなくて助かったぜ。



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