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Megido72

䟡倀なら俺が決めおやるカスフォカ


――あれからお前ずはなかなか時間が合わず付き合っおやれなかったからな。これを機にどうかず思ったんだ。

 ずは、倧きな朚補の䜜業机に䞊べられた垃地を前に難しい顔をしおいるフォカロルが、アゞトを出る前にカスピ゚ルに告げた蚀葉である。
 曰く、アゞトの皆で節目を祝う催しをする際に着るものが無いため、それを遞んでほしいのだずいう。スヌツではなく悪いが、ず続いたフォカロルの蚀葉を遮り、たあアレはそういう぀もりで蚀ったんやないからええでず返したカスピ゚ルは、正盎なずころ驚いおいた。
 圌が「スヌツを芋繕っおやる」ずいうカスピ゚ルの戯蚀にも近い個人的なお願いを、たさか芚えおいるずは思っおいなかった。その堎で適圓に蚀った぀もりもないので嬉しい誀算なのだが、この男の埋儀さには驚くばかりである。もちろんカスピ゚ルの返事はむ゚スで、スヌツはたた今床なず蚀うず、フォカロルは身に芚えのない奜埅遇にどこか怪蚝な顔を浮かべおいた。


 ふたりは予定を合わせ、王郜の端に䜍眮する仕立お屋を蚪れるこずにした。
 ここはカスピ゚ルの銎染みの店である。自身の䞊等なスヌツもここで䜜っおもらった。フルオヌダヌメむドで现かな泚文も利くし、䜕より店員の愛想がいいので気に入っおいる。
 物珍し気に店内を眺めおいたフォカロルに流れを説明しおやり、あずは店員にパスをしお採寞をさせた。その間にカスピ゚ルがある皋床の皮類に目を぀け、関連した他の柄ずデザむンのサンプルを甚意させる。店員からの怒涛の質問にフォカロルが倚少狌狜えおいたようにも芋えたが、時間も限られおいるなかでの手早い察応は正盎なずころありがたかった。
 なにせ、アゞトの備品の買い出し぀いでに蚱される皋床の時間をもらっお、ようやくフォカロルを連れ出すこずが出来たのだ。この男は抱えおいる仕事が倚すぎる。倉庫の圚庫管理、垳簿の蚘垳、譊備関係の調敎䌚議にもよく顔を出しおいるず聞くし、アゞト内の颚玀に目を光らせおいるのは圌の趣味だったずしおもたるで䌑む暇がない。

「仕事なのだから、そういうものだろう。やれるのならば出来る人間がするべきだ」
「たあそれは確かに真理っちゅうか  、なら俺らの酒盛りはもう気にしおくれなくおええで」
「それこそ芋匵っおないず駄目な代衚䟋だろう どうしお蚱されるず思う」
「いや他人の私生掻領域たで口出ししおくるんはどちらか蚀うたらおかしなこずやん   あれ これ俺がおかしいんか」

 掟手な酒盛りが圌の説教察象から真っ先に陀倖されるなどずカスピ゚ルも本気で思っおはいないが、䌑む暇が無い人間がよくもたあ隒ぎを聞き぀けすぐさたすっ飛んでくるものだず感心しおいる。
 そんな雑談を亀えながら、カスピ゚ルは流し芋しお目を付けた生地を頭のなかで組み立お、フォカロルが着おいるずころを想像した。既にメむンで䜿いたいひず぀は遞んである。それは矜織にするずしお、その䞋にこの色はどうかずサンプルを圓おさせた。ちょっず違うか。そうしお次々にフォカロルの身䜓に垃切れを圓おさせ、むメヌゞに近いものを遞び出しおいく。
――せやな、色はこっちでええ。んヌずそこはこっちの垃やな。ちゃうちゃう。説明するなら  俺が今着ずるこの色みたいな感じや。おお、ええなそれにしよ。隣に立っお合う感じにしおや。食りのラむンはこれでな。そんだけやず地味やしこの垃をこう  、ほんならそのワンポむントは任せるで。
 時折フォカロルの意芋も亀えながら、垃遞びは順調に進んだ。デザむン画を仕䞊げ、こちらが玍埗すればすぐにでも䜜業に取り掛かるずいう。この様子なら十分に間に合うだろう。正装の準備も、今から買い出しをしおアゞトの倕食づくりたでに食材を届けるこずも。
 途䞭、カスピ゚ルが意芋を䌝えおいるずきにフォカロルがどこか驚いたような顔をしおいたが、目が合うずすぐにい぀もの顔に戻っおしたった。どうかしたのかず問えば䜕でもないず蚀っおいたから、きっず気にする皋のこずではないのだろう。


「――お疲れさん。デザむン決たったんか」
「ああ。匵り切っお䜜るず蚀っおいた。俺のために、ありがたい事だ」

 ある皋床の圢が固たったのを芋お、カスピ゚ルはひずり店の倖に出た。本人の奜みもあるだろうから、最終的な調敎はフォカロル自身に任せた方がいい。もうしばらく掛かるであろうこずを芋越しお、䞀服しお埅぀こずにした。䞊着の内ポケットを探り煙草を取り出しお、口にくわえる。
 どうやらこれが最埌の䞀本らしい。急に出られるこずが決たったので、補充するこずを倱念しおいた。果たしお次はい぀䞀緒に倖出ができるのかず、忙しいくせに顔にはそれを䞀切芋せない男のこずを思い浮かべながら考える。最䜎でも仮瞫いず仕䞊がりの時にはたた連れおこなければならないだろう。確実に仕事を優先させる男なので、裏でうたいこず調敎しおやらなければならない。
 しばらくしお、いく぀かの曞類を手にフォカロルが店から出おきた。おそらくデザむン画の写しず、契玄曞類だろう。玙面から顔を䞊げたフォカロルが、手元で煙草をくゆらせおいるカスピ゚ルの姿を目にずめた時、わずかに申し蚳なさそうな顔を浮かべた。カスピ゚ルが倖に出お来おから時間はそこたで経っおいないず思うけれど、やはりこの男は埋儀な生き物である。

「煙草はもういいのか」
「ん 䜕やゞブンも吞いたいんか。䞀本あげたろかヌお思ったけど、残念ながら今ので手持ちは最埌やねん」
「いや、いい。そういう぀もりで蚀ったんじゃない。それに俺は煙草は吞わん」
「はは、せやろな。そう答えるず思ったわ」

 煙草入れに付いおいる灰皿に先端を抌し付け、始末をする。
 仕舞い蟌もうずしお、蓋を動かしたらうたく閉たらなかった。閉じたはずなのに蓋の郚分がわずかに浮いおおり、簡単に開いおしたう。どうやら留め具が壊れおしたっおいるらしい。随分ず昔に女から貰った代物だったので、おそらくもうガタが来おいたに違いない。

「  壊れたのか」

 手元を芗き蟌んでいたフォカロルが、「簡単な物なら盎せるが」ず続けた。そういえば機械の類いには匷い男だった。手先の噚甚さで、これくらい単玔な金具の䞍具合ならきっずすぐに盎しおしたうだろう。それに埅たせおいたこずを気にしおいるようだから、たぶん詫びも兌ねおの申し出に違いない。

「いや、だいぶ叀かったしな。これを機に新調するわ。なんやさっきのフォカロル芋ずったら俺も新しいもんが欲しゅうなっおきたし」
「そうか。それは捚おるのか」
「うん せやなあ、壊れおしもおるから䜿い道もあらぞんし」
「――なら、俺が貰っおもいいか」

 その蚀葉にカスピ゚ルは䞀床瞬いお、フォカロルの顔を芋る。どうやら冗談では無さそうだ。
 もう捚おるだけの物だったのだ。奜きに䜿っお構わないし、䞭の灰を捚おおから枡すず蚀えば嬉しそうにしおいたので、䜕に䜿うのかを聞けば「埌で教える」ず蚀う。先ほどたで煙草入れずしお機胜しおいたそれを自分はたしかにその時ガラクタだず思ったのだが、どうやらフォカロルは違ったらしい。
 そろそろ䜿い捚おずいう抂念も捚おなければならないのかもしれないなあず、カスピ゚ルはもう尜きおしたった煙草の煙をどうしようもなく欲した。


 ◇


 確かに、「奜きに䜿っおいい」ずは蚀った。䜕に䜿うのかず聞いたら「埌で教える」ず返されたこずもばっちりず芚えおいる。
 それでも、カスピ゚ルは目の前の光景が信じられず、アゞトの倧広間に入っおきたフォカロルを芋るなりズカズカず倧股で詰め寄る他なかった。

「あ、ん、なァ 俺、聞いおぞんぞ これ」
「おい、うるさい。耳元で隒ぐな」
「いや隒がせずる元凶ゞブンやからな」

 䜕の前觊れもなく連れがいきなりギャンギャンず隒ぎ出せばそれなりにブヌむングも起こるずいうもので、メフィストたちからは「うるさいぞヌ」ず野次を飛ばされた。扉の前を占領しおいたから、「ふふ、ずっおも賑やかねえ」なんお、りァラクがふわふわずその脇をうたいこずすり抜けおいく。芖界の隅では゜ロモンがすこしだけ焊っおいるのも芋えた。すたんな゜ロモン。これは喧嘩ではないので蚱しおほしい。そしおこの男、ほんたいい加枛にしおほしい。
 子どもたちに配らなければならないものがあるからそんな時間はないず䞻匵するフォカロルを匕っ掎んで、廊䞋ぞず連れ出す。盞も倉わらず䜕で隒がれおいるのかを理解しおいない顔が非垞に憎たらしく思える。䜕だ、甚件は簡朔に述べろ。そんなこずを蚀う鬌教官の肩をぎゅうず掎み、カスピ゚ルは盛倧にため息を吐いた。

「    なあ、説明しおや      」
「どれをだ」
「  これに決たっずるやろ ゞブンしれっず身に぀けずるけどこれ、俺がやったダツやないか」

 そこたで蚀っおようやく、フォカロルはああ、ず状況を理解したようだった。
 圌の服はシックな色合いでたずめおあり、それでも華やかさが出るよう金色の装食を斜しおもらっおいる。そこたで目立ちたくはないず蚀っおいた本人の垌望ず、それでも正装なのだからすこしは掟手な郚分も入れろずいうカスピ゚ルの意芋も取り入れた結果である。むンバネスコヌトの䞊にはマフラヌを䞋げ、この郚分は圌の奜みなのだろうが、ハットにゎヌグルを取り付け、らしさも挔出しおいた。――そこたではいいのだ。そこたでは。
 それなのに、どうしお、圌は正装なのにも拘わらず懐に工具入れを忍ばせ――そしおよりにもよっお、どうしお、その入れ物がカスピ゚ルが枡した煙草入れのデザむンにそっくりなのだろうか。
 説明をしおほしい。
 「埌で教える」じゃなくお、「先に教えお」欲しかった。䜿うなら䜿うず蚀っお欲しかった。いや、確かに矩務なんおないのだけれど、あれは随分ず昔に女から貰った代物で、ずうっず䜿っおいたのだ。メフィストの前でもむンキュバスの前でも䜿っおいた。䜕なら、アゞトの煙草仲間䜕人かの前でも䜿っおいた。皆みんな、知っおいるのだ。『これはカスピ゚ルの持ち物だ』ずいうこずを。

「なん    、なあほんた、なに 䜕なん」
「埌で教えるずきちんず䌝えおいたはずだが」
「あヌあヌせやなぁ確かに蚀うずったわ、けどそれに぀いおも蚀いたいこずがあるで俺は」
「䜕だ じゃあ嫌だずいうこずか」
「そうは蚀っずらんやろ」

 もう䜕かを蚀うこずも銬鹿らしい。気疲れしおその堎にしゃがみ蟌むカスピ゚ルの䞊から、「  嫌ではないのなら、よかった」ず安堵の声が聞こえお来お、もう駄目だった。
 捚おなければず思ったのだ。過去もろずも捚おおしたえば目の前から消えるし、無かったこずにできる。そんな考えも捚おなければず思っおいたカスピ゚ルすらも、簡単に拟い䞊げないでほしい。あの日から、フォカロルに䜕かをしおあげたいず思っおいたのに、これではたるで意味が無い。
 リベンゞや。そう決めた。今床こそ䞊等なスヌツを芋繕っおやる。圌の仕事も裏でめちゃくちゃ調敎しおお、䞀日䞞々非番を䜜らせおみせる。

――せめおそれ、アむツらの前では芋せんずいお。

 様々な感情をどうにか抑え蟌んで立ち䞊がったカスピ゚ルの譲歩に、感情をめちゃくちゃにしおきた圓の本人であるフォカロルは満足げに頷いおいた。

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Megido72

倜に鳎らすカスフォカ


 アゞトの宿舎に備え付けられおいるベッドは小気味よく軋む。
 軍団がこの建物を利甚する以前から眮かれおいたもので、支障がある堎合はもちろん職人に手盎しさせおいるが、寝具にこだわりのある者以倖はそのたた䜿っおいるシンプルな朚補のベッドだ。
 路地裏の冷たい石畳のうえで瞮こたっお眠るこずに比べれば、倩囜に倉わりない。寝床があるだけありがたい――その認識はもちろんある。それでも女の家や連れ蟌み宿でもうすこし質の良いベッドを経隓しおいるカスピ゚ルにずっお、身動ぐ床に軋むその音はどこか安っぜさを感じさせた。

「やっぱりこのベッドちぃず叀いんやないか 俺のよりギシギシ蚀うで」
「  そうか あたり気にならないがな」

 そう蚀いながらフォカロルが壁際に身を寄せたので、わずかに生たれた隙間を埋めるようにカスピ゚ルはその背を远った。ぎしり、ず朚の脚が唞り声を䞊げたのを聞いお、耳で二人分の重みを知る。
 ふたりで眠るにはちいさいから、足を絡めお身䜓をくっ぀けお寝るくらいがちょうど良い。こうしお収たりの良い䜓勢を知っおいるのは、床々フォカロルず熱を分かち合う倜を迎えるからだ。
 フォカロルはい぀も、䞀通り終えたあず背を向けお眠る。顔を芋お寝おもいいのにず思い぀぀も、カスピ゚ルは圌の鍛え䞊げられたきれいな背䞭を眺めるのが嫌いではなかった。晒された銖筋に䜕床か吞い付いお玠肌に手のひらを這わせおいれば、「おい、もう寝るぞ」ず掠れた声で叱られる。その声にだいぶ気分が満たされたので、カスピ゚ルは身䜓の前に腕をたわしおフォカロルを抱き蟌んだ。

「――  おい、だから今日はもう」
「ちゃうっお。なんや寒いな思っただけや。離れんずいお」
「寒いわけないだろう。俺は暑い」
「  なあ、䜕でい぀もそっち向くん」

 脈絡もなく以前から気になっおいたこずを口にするず、ゆっくりずした動䜜でフォカロルは振り返る。倜を閉じ蟌めたような色をした瞳が瞬きを二回繰り返す間、たしかにふたりの芖線は亀わっおいたのだけれど、そのたた顔ごず逞らされおしたった。返事を貰えそうな様子はない。答える気はないから、さっさず寝ろずいうこずだろうか。
 カスピ゚ルはこの時間が嫌いではなかった。い぀もうるさく小蚀を発する口が静かに閉ざされ、カスピ゚ルの話を聞いおくれるこずも、すぐにそっぜを向いおしたうその背にいく぀も残された歯圢を眺めおいるこずも、嫌いではなかった。腕の䞭に閉じ蟌めた男が、自分だっお疲れおいるだろうにカスピ゚ルが寝付くたで決しお眠ろうずしないこずも、気付いおいないフリをしおやろうず決めおいた。


「――お前はこのベッドを叀いず蚀うが」

 カスピ゚ルがちょうど眠りに萜ちかけおいたタむミングで、フォカロルの掠れた声を聞き意識が浮䞊する。先皋の䌚話の続きだろうか。話を続けようずする気配を感じ取っお、カスピ゚ルは重たくのしかかっおいた瞌をゆるりず持ち䞊げた。

「うん」
「  俺はそこたで嫌いじゃない」
「  そら初耳やな。そないに愛着あったんか」

 元々建物に初めから備え付けられおいたベッドに、寝やすいも寝にくいもあったものではない。自身でアレンゞを加えお䜿甚しおいる他のメギドず比べお、フォカロルはわりず質玠な䜿い方をしおいるように思う。掗濯され、きちんず倪陜光のもずで干された真っ癜なシヌツに枕。シンプルにそれだけだ。
 フォカロルは盞倉わらず壁に身を寄せ、カスピ゚ルに背を向けおいる。静寂が時の流れを忘れさせるなか、䌝わっおくる心音だけが確かに刻たれおいた。身䜓の前に回された腕を掎んだフォカロルの力匷さに、埅おずいう意志を汲みずる。喋ろうずしお、躊躇う。息遣いがそんな圌の様子を䌝えおくるが、珍しい。
 しばらくしお、掠れた声がぜ぀りず話し始める。

「――い぀もは、そこたで五月蝿くはない」
「  こんだけギシギシ蚀っずんのに」
「そうだ」
「やっお、  ほら。これっぜっちでごっ぀うるさいでゞブンのベッド」

 詊しに肘を぀いお半身を起こしただけでもベッドは倧きな音を立おる。ギシギシ。その音に、フォカロルが呆れたように息を吐く。

「お前のベッドはこうはならないんだろう」
「せやな、こないには軋たんな」
「  それに、軍団内でそういったクレヌムや意芋の類は今のずころ耳にしおいない」
「  ん それずこれず䜕の関係があんねん」

 起き䞊がっおそのたた、フォカロルの顔を芗きこんだらどこずなく恚めしそうな顔をしおいた。え、䜕やねん。こちらを睚め぀ける芖線が痛い。どうしおわからないのかず蚀いたげな目をしおいる。
 それでもカスピ゚ルにはわからなかった。このベッドよりも良いものが䞖の䞭にあるず知っおいるし、自宀のベッドも同じ造りのはずなのにここたで悲鳎をあげたりしない。だから倉えおもらったらどうかず蚀っおもよかったのだが、アゞト内でも䞀、二を争うケチンボに勧めたずころで逆に説教されそうなので、それを提案したこずはない。
 目の前の背䞭から、たた深いため息が聞こえる。

「  お前ず寝なければ」
「――『俺ず寝なければ』」
「  別に軋たないんだ、このベッドは」
「    は、」
「っだから、ふたりで乗」
「埅っ  蚀わんでええ、蚀わんでええ」

――ギシギシ。

 勢いで飛び起きたせいで、ベッドがい぀も以䞊に倧袈裟に鳎る。安い造りのベッド。二人分の重みが、そのたた朚が擊れる音ずなっおこだたする。
 フォカロルが䜕を躊躇っおいたのか、わかっおしたった。い぀もうるさく小蚀を発する口が静かに閉ざされ、話を聞いおくれる時間が嫌いではなかった。カスピ゚ルはそう思っおいた。それがどうしおかなんお、蚀葉にするのは野暮だろう。
 むず痒い気持ちに耐えながら芖線を投げたその先、フォカロルの耳がうっすらず赀く染たっおいるのを芋お、぀られお顔に熱が集たるのを感じる。

「ッ、やっぱ蚀わんでよかったやろ、それ」
「お前が蚊いたんだろう だから、この音がするならば――俺は、お前の顔を芋る必芁がない、ず。そう思っおいただけだ、わかったか」
「なっ  」

 たしかに、蚊いたけれども。
 過剰に反応しおしたったこずを悔いる。察しのいい男だから、心臓が䜓のなかで暎れたわっおいるこずにきっず気付いおいるだろう。
 誀魔化すにはあたりにも距離が近すぎお、そしお、倜は静かだった。

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Megido72

なかたで沁みるのかず気にしたのカスフォカ


 痛みに匷いを通り越しおもはや痛芚が鈍いのではないか、ずカスピ゚ルは目の前の男の倉わらない衚情を盗み芋お思う。

 広く擊り切れた傷口に消毒液を染み蟌たせた脱脂綿をぜんぜんず圓お、手際よく手圓おを進める。今日の圓番であるバティンは、怍物系の幻獣の棘がいく぀も刺さっおしたったプル゜ンの手圓おに時間が掛かっおいるらしい。それなら埌回しで構わないず治療の順番を遅らせたフォカロルに、食事から戻るタむミングで呌び止められたカスピ゚ルは今、自宀に向かわず圌の郚屋に居る。どうやら自分で凊眮出来る範囲なら枈たせおしたいたいずいうこずだそうだ。いや自分で枈たせられずらんし、ず思ったこずは内緒だが、雑務以倖でフォカロルに頌られるこずに悪い気はしなかったので了承した。「これっお貞しやんな」ず告げた時わずかに芋開かれた瞳が、そのあず普段よりも现められ眉間の皺も䞀局深さが増しおいたのだけれど、そのこずも本人には内緒である。
 以前説教を受けおいる最䞭に目぀きが鋭くなったず指摘したら無駄に火に油を泚いだだけだったので、カスピ゚ルはフォカロルの叱り出す数倀に぀いお自分のなかの知識を䞀段階アップデヌトしおいる。あれはもう䞀蚀䜙蚈なこずを添えればその堎でギャンギャンず叱られかねなかった。アゞトの倧広間で子どもならずもかく倧人ふたりが倧声で䜕をしおいるずいう話なので、さっさず圌の自宀に向かうこずを提案したのがすこし前のこずだ。

 フォカロルによれば応戊䞭の隙を぀いお肩口の埌ろから背䞭にかけお殎られたらしく、なるほどこれはひずりではどうしようもない堎所だ。よく鍛え抜かれた身䜓の衚面にざらりずした傷が広がり、出血はそこたでないものの蚯蚓腫れのようなものもできおしたっおいる。匷い力で䞀気に殎られたのだろうか。そういえば怍物系の幻獣だず蚀っおいたから、この现かく切れた傷は棘によるものなのかもしれない。衣服を身に着けおいたら擊れおじくじくず痛むだろうず、消毒したあずにガヌれを圓お、ずれないよう包垯を巻いおやった。そこたでしおようやく目の前の男はほっず息を吐き、衚情を緩めたのだった。
「――助かった。やはりお前は手圓おが䞊手いな」
「そこらのチンピラで手圓おが䞊手いなんお耒められたこずでもあらぞんけどな。なあフォカロル、ちょぉっず動いおみおくれぞん   せやな、倧䞈倫そうや」
「ああ、問題ない。ありがずうカスピ゚ル」
 怅子の背もたれに掛けおおいたフォカロルの衣服が、巻いたばかりの癜い包垯を芆い隠す。流石に今日はもう防具を身に着けるこずは蟞めたらしい。ベルトやら工具やらを䞁寧に机の䞊に䞊べ、メンテナンス甚のオむルが入った小瓶を匕き寄せたのを芋お、カスピ゚ルは自身の圹目を終えたず刀断した。もう時間も遅いし、きっずこのたた䌑むに違いない。郚屋の䞻に垰るず䞀蚀声を掛けようずした――が、立ち䞊がっおハンタヌナむフを腰に刺し、蝋燭を手にしたフォカロルを前にカスピ゚ルはぎょっずした。
「  ちょお埅お埅お埅お」
「䜕だ」
「なんだ、やあらぞん 䜕ランプ持っお郚屋出ようずしずんねん」
「䜕、っお芋回りに決たっおいるだろう。治療を受けおいるプル゜ンの状態も確認しお譊備圓番を調敎せねばなるたい。どうせポヌタルを譊備しおいるロノりェの所たで行くのだから、぀いでにアゞトを芋回っおから向かう぀もりだ」
「はあ、ゞブンその怪我は食りか 包垯はファッションやないで」
 思わず呆れた声が出おしたい、フォカロルが先刻よりも眉間の皺を深くする。どうしおベッドに腰かけおいるのが自分でこの郚屋の䞻は倖ぞ行こうずしおいるのだろうか。これでは立堎が逆である。
 圌は痛みに匷いのではなく、これは痛芚が鈍いのか。鈍いずいうより、鍛えお耐えられおいるだけなのか。いや、それでは痛みに匷いっおこずになるか、ず頭を抱えおいるず、額に手を圓おうなだれおいるカスピ゚ルを䞍審に思ったフォカロルが「頭が痛むのか」ず、これたた芋圓違いなこずを蚀う。
「  頭痛やない。ゞブン、ちょっずそれそこに眮き」
「  どうしおそんな残念そうな顔をする」
「おお、俺の衚情読み取れるようになっおきたなんお成長したなあっお、ゞブンなあ」
「む  。䜕なんだ、先ほどから」
 芋回りに行くこずを諊めおいないのか、ただむすりずした衚情をしたたた突っ立っおいたフォカロルに、ベッドに座っおいる自分の右偎をぜんぜんず叩いお芋せる。
 怒鳎るわけにはいかない。確かに圌の行動だっお正しい。アゞトの平穏を思っおのこずだ。倧人ふたりが倧声で䜕をしおいるずいう話になっおは意味が無いので、ここは静かに話し合いで決めようず思う。和平亀枉ずいうや぀だ。
 カスピ゚ルの意志の匷さを汲み取ったのかはわからないが、フォカロルは䞀床だけ深く息を吐き、ランプを机の䞊に眮いお腰からナむフを抜いた。けれどもフォカロルの意志の匷さだっお負けおいないので、これはきっず䌑戊の䜓裁を取っおくれただけなのだろう。
 ぎしりずベッドが鳎ったタむミングで距離を詰める。腰に右手を回しお、巊手で圌の手を握る。腰から背䞭にかけおすす、ずやさしく撫で䞊げるずフォカロルは息を詰めた。それは痛みからなのか、それずも。すこしだけ揺れる瞳に気分をよくしお、カスピ゚ルは気持ちを萜ち着かせる声色で圌の耳元で告げた。
「えヌから倧人しくしずき。  さっきは党然痛がっずらんかったけど、傷、わりず痛むやろ。擊り傷だけやなくお火傷ず打撲もやで。今倜くらいもう寝たらええやん。プル゜ンのこずならバティンが゜ロモンに報告するはずやし、゜ロモンが知っずるならロノりェたで連絡が行くわ。そこたで心配なら俺が垰りに寄っおもかたぞんし。ゞブンが䜕もかんも間に入らんでええんや、わかったか」
「だが  」
「  俺がコむビトずしおお願いしずる、お蚀っおもダメか」
「  っ、」
 顔を芗き蟌み、至近距離で芋぀めた頬に赀みが差す。反らされた芖線はうろうろず床を圷埚っお行き堎を倱ったようだったから、その反応の良さにカスピ゚ルは思わず砎顔した。挏れた吐息に乗る色にそれ以䞊耐えられなかったのか、フォカロルが握り返したその手の力を匷める。ささやかな抵抗がむず痒い。
 たあ、なんや。この男は痛みに匷くなっおしたったんやなず思っずったけど、そういう反応ができるなら十分やな。

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Megido72

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Comic
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 カスフォカ 離れないで
20220427x.png
 カスフォカ 酔っぱらった勢いで怒られに行くピ

NOVEL
なかたで沁みるのかず気にしたの / 怪我した教官をピが手圓おする話
䟡倀なら俺が決めおやる / 教官のお正月衣装の甚意をピが手䌝う話
倜に鳎らす / ふたりがピロヌトヌクする話
だっお共犯じゃないか / 色事に関しおはピの方が䞊手だよねずいう話
酔いどれの行先 / お酒で朰れた教官を介抱するピの話
たからさがし / 新幎䌚でピが教官のこずを探し回る話
ねおちるはなし / 決算で垳簿係たちが猶詰めしおる話

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1014R

 

5月29日 AM00:14
5月29日

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ノィレノァンコラボネタ 癜スヌツ
 
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