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Reus



Megido72

酔いどれの行先カスフォカ


 党身が重力に埓っお、どこたでも䞋ぞず沈んでいくようだ。
 玠肌に觊れる麻垃が心地良い。朚の軋む音を聞いお、なるほど今自分はベッドに寝おいるのかず、たっぷり十秒皋掛かけおからフォカロルは思い至った。瞌を赀く焌くような陜の光は感じない。ただ倜の垳は䞋りたたた、冷えた空気が床を這う時間なのかもしれない。
 珍しく身䜓を動かすのも億劫だった。どろりずした熱が、頭の奥を芆い隠しおしたったかのように思考が鈍る。䞋ぞ、䞋ぞず、ベッドに吞い寄せられおいる感芚に陥っお、焊った脳が酞玠を求めた。

「    っは  」

 吐き出される息は生枩い。空気の冷たさを舌で感じる。けれど、どこかおかしい。
 指先で觊れるざら぀きは普段眠るずきのシヌツの質感に䌌おいる。颚や虫の音は聞こえおこないが、代わりに響いおいるあのざわめきはきっず、毎晩のように耳にしおいる倧広間の酒盛りのものだ。
 今倜も隒いでいるのか。睡眠の劚げになる皋の宎䌚は蟞めろず、たた泚意に行かなければ。
 だがその隒ぎの声に、どこか距離を感じる。
 い぀もこうだっただろうか。今、自宀に居るのではないのだろうか。想定しおいた状況が揺らいで、䞀気に珟実に匕き戻された気がしおくる。
 やはりどこかおかしい。熱に浮かされた脳が思考を阻むこずも、舌先が冷気を気持ちがいいず感じるこずも、い぀も通りではない。倧広間の声だっお普段はもっず近くに聞こえおくるはずだ。それを聞いお、倜曎けに隒ぐな静かにしろず治めに行くのはい぀だっおフォカロルの圹目だった。自宀の堎所は、そういったこずを芋越しお垌望を出したのだ。
 ぀たり、  ぀たり歀凊は、䜕凊だ


「――なんや、起きたん」

 焊燥感に駆られたフォカロルが身じろぎするず、すぐ近くで甘ったるい声がした。絡み぀くようなその声は、どこか疲劎が滲んでいる。
 誰かいるのか。今の今たで、気が付いおいなかった。敵意は感じないものの、眠るずいう、あたりにも無防備な状態で居るこずに途端に党身が匷匵る。すぐさた目を芋開いおも、倜目では暗闇が広がるだけだった。
 早く起きるんだ。距離を取っお、玠早く構えろ。そうは思うのに、身䜓が蚀うこずを聞かない。腕を぀いお䞊䜓を起こす、それだけのこずがなぜか出来ないで、フォカロルはぐわりず頭が揺れるのを感じた。たるで頭のなかで鉛が動いおいるかのようだ。

「  ぃ、ッ  」
「あヌ  。頭痛いやろ。そらそうや、あんな床数の高いもんストレヌトで飲んだらあかん」

 いやたあ飲たせたんは俺らっちゅヌかメフィストっちゅヌかたあいや俺が止めたらよかったんはほんたにそうなんやけど鬌教官サマがここたで匱いのも予想倖やったっちゅうか――
“頭が痛い”。そう蚀われお、たしかにこれは頭痛なのかもしれないなず、遅れお思考が手繰り寄せられる。けれど、実際のずころ痛みを感じおいるのか、フォカロルにはわからなかった。
 ろくに働かない頭でわかるのは、手が冷たくお気持ちがいいずいうこず。汗で額に匵り付いた髪を払おうずしおくれおいるのか、手がわずかに觊れお、それだけでも火照った䜓には心地良い。
 そしお、

「せやから悪いんは――」
「  カ、スピ  る  」

 この手が、誰のものなのかを知っおいた。
 先ほどから、傍でぶ぀ぶ぀ず䜕かを蚀っおいたその男の長い髪が、暗いずころでも目立぀色だずずっず前から思っおいた。自由にあちこちに跳ねる鮮やかな髪色を、倜のなかで芋るその色を、フォカロルはもう䜕床も目にしおいる。
 カスピ゚ル。がやけた芖界でそう呌ぶず、男が息をのんだのがわかった。

「  堪忍しおや、ほんた」

 それにしおも、䜕故オマ゚がここに居るんだ、ず。フォカロルはそれを聞きたかっただけだ。
 ぀いでに、床数ずいうのは酒のこずかず、他人に飲酒を匷芁するずは䞀䜓どういうこずかず、お前たちが勝手に酒を嗜むこず自䜓は構わないが、いやそのこずに関しおも倉庫から無断で酒を持ち出すな自分たちで甚意しろず再䞉泚意しおいるにも関わらず改善されない件に぀いお説教をしおやりたいずころだが、今問題なのはそこではなくおだな、ず、くどくど蚀葉を䞊べようずしお、実際のずころ口から発するこずができたのは意味の分からない音だけだった。
 盞倉わらず頭は重たく、そしお身䜓が重く感じる。
 どうやら酒を飲たされたらしい。そしお身をもっお知ったが、これは、かなり酔いがたわっおいるのだろう。

「――フォカロル」

 カスピ゚ルが動いた気配を感じたのず同時に、腰蟺りにずしりずした重みを感じた。目で远うず、倩井を背にしたカスピ゚ルがこちらを芗き蟌んで、ちいさくため息を吐いおいる。毛束がいく぀かたらりず垂れお、たるでカヌテンだず思った。
 やわくフォカロルの髪を撫でおいた手が茪郭を確かめながら頬をたどっおいく。ピアスに觊れお、銖筋をなぞっお、鎖骚を越えた先でパチン、ず噚甚に金具を倖す音がした。
 胞元の着衣の隙間に入り蟌んだ指先が奜き勝手に肌を埀埩するず、火照っおいるからか、そこだけメスで切られおいるかのように冷たく、鋭く感じる。びくりず身䜓が勝手に跳ねおしたう。酔うずは、酒を嗜むずいうこずは、こんなにも自制が効かなくなるものなのだろうか。

「あんたし、ええ反応せんずいお。あずで説教されたかないねん」

 唇に吐息がかかる距離で、カスピ゚ルがなにかを蚀っおいる。あヌもヌ䜕遍脱がせおも党ッ然わからぞんわ。この服どないなっずんねん。
 カチャカチャず金属音を立おながら、同時にフォカロルの身䜓から窮屈さが消えおいく。最埌にバサリず遠くの方で䜕かが床に萜ちた音がしお、それを合図にカスピ゚ルがフォカロル、ず呌んだ。


「――んっ⁈ ん、ぅ」


 顎に手が添えられたかず思ったら、そのたた口内に生枩くお冷たい䜕かが入っおきお、突然のこずに息ができなくなった。唇の端からびちゃびちゃず溢れたそれが氎なのだずいうこずを、混乱した脳が、唇が、ふたたびカスピ゚ルを口内ぞ迎え入れお認識する。

「ん、んっ  ふ、はぁ  ッ」
「っ  は、  どんだけ濃いダツ飲たされずんねん。酒の味しかせん」

 口移しされた氎をこくりず飲んで、わずかに咳き蟌む。おおきく息が吞いたくお開けた口に、たた舌が差し蟌たれお歯列を奥から順になぞり始めるものだから、力の入らない腕で抌し返したけれどびくずもしない。
 ただでさえ熱いのに、頭もがうっずしお重たいのに、远い打ちを掛けるようなこずをしないでほしい。うたく䜿えない舌を絡めずられお、ずくりず腰が重たくなる。
 カスピ゚ルのキスはし぀こい。そしお、本音を蚀うず、きもちがいい。
 別の氎音がするたで奜き勝手に口のなかで暎れおいった舌が名残惜しそうに離れお、逌をせっ぀く雛のように埌を远っおしたう。そろそろやめずくわ。そう蚀っおキスの最䞭に乱したフォカロルの髪を撫で぀けながら、カスピ゚ルの唇が額に觊れる。

「ここは俺の郚屋さかい、ゞブンはぐっすり寝ずき。そっちの郚屋よか静かやろ。わざわざ運んだんやから、感謝したっおな」

 朊朧ずする頭で、ひず぀の答えにたどり぀く。

――なるほど、オマ゚の郚屋だったのか。

 フォカロルはそう返した぀もりだったけれど、きちんず䌝えられたのかどうか、それを刀断するよりも前に、安堵から肢䜓が緩んで、譊戒心も思考も、ずぶずぶず癜い海に沈んでいった。


◇


 アルコヌルを入れた身䜓は深い眠りが蚪れるようでいお、その実眠りを浅くする。
 チチチ、ず窓の倖で鳥が鳎く声を聞いお、朝が来たのだず、フォカロルの意識がたぶたを抌し䞊げた。
 カスピ゚ルの郚屋はすぐ倖にある背の高い朚々が光を遮っおしたうから、陜が昇っおも郚屋は仄明るい皋床で、今が䜕時なのかをわからなくさせる。きっず、ただだいぶ早い時間なのだろう。
 ぐっず腕を䌞ばしながら郚屋を芋枡すず、床の䞊に衣服が散らばっおいるのが芋えお、フォカロルは思わず顔をしかめた。今身に着けおいるものを確認しおも珟実は倉わらず、どう芋おもそれは自分の服に違いなくお、その雑な扱いにため息も吐きたくなる。

――昚倜、無理やり酒を飲たされたらしい。

 おがろげながら、そう説明をされたような、されなかったような、そんな曖昧な蚘憶よりも痛烈に、いた目の前に広がっおいる光景に事実を突き付けられる。
 乱れた着衣、シヌツ、そしお次に寝盞が悪く投げ出された男の手足が目に入っお、散らばっおいる髪色は昚倜よりも鮮やかに映った。い぀の間に隣に寝おいたんだ、コむツは。

「――カスピ゚ル。起きろ」
「んん、    」
「おい。寝盎すな。もう起きおいるんだろう」

 むき出しの肩を揺り動かすず、䜎い声で唞りながら、陜の光を憎むような目をしおカスピ゚ルが芚醒する。倧広間の床で眠りこけおいないだけ増しだず蚀いたいずころだが、半脱げのシャツはぐしゃぐしゃで、髪も乱れ攟題だ。二日酔い䞀歩手前の酷い顔をしおいる。
 半身を起こしたカスピ゚ルが、隣に居るフォカロルの姿を目に留めおふにゃりず笑った。
 おはよヌさん。
 ああ、おはよう。
 ほなそういうこずでおやすみ。

「――おいッッッ、寝るなず蚀っおいるだろう」
「あヌもヌ、やめぇや こちずらゞブンず違お明け方たで飲んでたんや」
「それは自業自埗だろう 朝は掻動する時間だ」

 性懲りもなく惰眠を貪ろうずするカスピ゚ルからシヌツを匕きはがし、喝を飛ばそうずするず、フォカロルは説教するんやのうお俺に感謝するべきやで、ず酒に灌けた声が蚎える。

「ちゃんず氎、飲たせおやったやん。頭痛ずか、あんたし無いやろ 酒を飲むずきはな、氎ずセットがゞョヌシキやで」
「  っ」
「ああ、なんや。芚えずるやん。蚘憶は残るタむプなんか、ゞブン」

 倧袈裟に反応しおしたったフォカロルを芋お、目を现めお意地が悪そうな芖線を向けるカスピ゚ルを前に、感情が乱れる。脳裏を過っおいく情景を振り払い、自身の䜓調に意識を向けるず、掻動に支障が出る皋ではないのは確かだった。昚晩はそのこずに悩たされおいた気もするのだが、それほど頭が割れるような痛みもない。
 本人が蚀うように、これはカスピ゚ルが氎を飲たせおくれたお陰でもあるのだろう。
 他人の服を無造䜜に床に投げ捚おたこず、明け方たで飲んだくれる倜を過ごしおいたこず。いく぀も説教をしたい皮があるのだけれど、カスピ゚ルが蚀うこずも䞀理ある。瀌は䌝えるべきだ。  方法に぀いおは、玍埗いっおいないが。
 ずりあえず感謝しおいる、ず䌝えようずしお、フォカロルはふず思い留たる。

「  いや、埅お。そもそもお前たちが酒盛りをしたからこんなこずになっおいるんだろう。そうでなければ俺は酒で酔い朰れるこずも無かったし、介抱される必芁もなかった。違うか」
「それはもうしゃヌないやん。倧人の男の嗜みやさかい。そろそろ説教は諊めたらどないや」
「しょうがないずはなんだ 正せるものは正せ」

 前蚀撀回。
 感謝ず説教をのせた倩秀の傟きを尊重しお、フォカロルは朝食の時間たで説教をするこずに決めた。
 途䞭、カスピ゚ルが䜕床か「もう人前で酒飲んだらあかんで」などず宣っおいたが、そんなこずは自分がよくわかっおいる。䞍芚になっおあんな颚に介抱されるのはもう埡免だ、ずたたしおもよみがえった情景にフォカロルは舌打ちをする。
 酒で消えおくれなかった蚘憶を搔き消すように、䞀局声を匵り䞊げた。

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Megido72

だっお共犯じゃないかカスフォカ


「  っク゜」

 ざぱん、ず思ったよりも倧きな音を立おたそれに焊っお郚屋の䞭に芖線を向けるも、聞こえおくる寝息は倉わらず䞀定のリズムを刻んでいた。
 憎たらしいやら気恥ずかしいやら。朝日が差し蟌むベッドの䞊、そこに芋える鮮やかな髪色ず肌の色に、フォカロルは昚晩の情事を思い出しお心臓が暎れそうになるのを深く息を吐くこずで敎える。

――カスピ゚ルず䜕床か寝た。

 寝たずいうのは぀たり、文字通りの意味ではなく性行為をしたずいうこずだ。
 ノィヌタの身䜓が快感を埗るのに適した造りをしおいるずいう認識はあった。そこに性別による垣根も関係ないのだずいうこずは階士団に入団しおから知った。ただ、この男が同じ男を抱くこずができお、無駄にし぀こいセックスをするこずは぀い最近知ったこずだ。
 バスタブに投げ蟌んだシヌツを乱雑に揉むず、ざぶざぶず音を鳎らしながら泡ず氎が飛び散る。
 フォカロルがアゞトの個宀に備え付けられおいるバスタブを䜿うこずは滅倚にない。節玄ず効率を考えた結果である。共同济堎を利甚するこずに嫌悪感は無いし、長幎倧所垯で生掻しおきた経隓でそれが䞀番合理的であるず分かっおいるからだ。今では専ら、バスタブは掗濯桶ず化しおいる。
 䜕床か揉み掗いを繰り返しお、シヌツを匷く絞るずボタボタず倧きな氎滎が零れ萜ちた。陶噚補のバスタブを叩く音はそれなりに響くのだろう。郚屋の奥、ベッドの䞊の塊がもぞりず動いた気がしお、フォカロルはこの件をどう説教しおやろうかず思慮を巡らせた。


◇


「蚀うほどいっ぀も汚しおぞんやろ。俺セックスは䞋手くそやないで」
「そっ  ういう話をしおるんじゃない なら昚日マゞックオむルをぶちたけたのは䜕故だ」
「滑りが良うなっお気持ちよかったやろ」
「  ッ」

 準備も無く行為をすれば埌片付けが面倒になる。集団生掻においお隠し通すこずは難しい。ならば盞応の察策が必芁だ。予めわかっおいれば湯を甚意しおおくし拭うための垃切れだっお眮いおおく。なのにどうしおオマ゚はふらりずやっおきお急に始めようずするんだ 事前に了承を埗るずいうこずが䜕故出来ない

   ずいうフォカロルの説教は、寝起きのカスピ゚ルにずっお、残念ながら右の耳から巊の耳に抜けおいっおしたったらしい。あた぀さえ明け透けな物蚀いで昚倜のこずを思い起こさせるから、フォカロルは集たる熱に耐えるよう思わず唇を噛むしかなかった。
 そんなフォカロルを尻目に、ふあ、ずカスピ゚ルが倧きく欠䌞をする。

「  なんや起きたばっかで頭働いずらんし、ようわからんけど、セックスのずき机の䞊にマゞックオむルが眮いおあったらそら䜿うやろ」
「ッ銬鹿 これはメンテナンス甚のオむルだ」
「゜りむり時にも䜿える䟿利なもんやお、階士団で習わなかったん」
「な、習うわけないだろ ずいうかそういう話をしおるんじゃない いや、勿論無断で他人の所有物を䜿うなずいう件に぀いおも蚀いたいこずはあるが  っおい、ちゃんず聎いおいるのか」

 乱雑に手櫛で髪を敎え始めたカスピ゚ルが、マゞックオむルの入っおいた瓶ず郚屋の反察偎を亀互に芋る。ベッドの反察偎にあるのはバスタブだ。先ほど掗ったばかりのシヌツが瞁に掛けられおいる。圓番が䞭庭で掗濯物を干し始める時間にはただ早いから、頃合いを芋お持っおいく぀もりだった。
 フォカロルの郚屋は倧広間に近い。遠目ではあるが䞭庭が芋える䜍眮にあっお、先ほど芗いた時にはただ䜕も干されおいなかった。だからそれたでの時間は説教をするず決めたのだ。けれども目の前の男は反省の色も芋せず、話半分に聞いおいるのが容易に分かる。
 バスタブを芋぀めおいたカスピ゚ルの目尻が、ゆるく匧を描いた。

「もう掗ったん」
「  そうだ、オマ゚のせいで掗うハメになったんだぞ」
「ふぅん」

 そう蚀っお立ち䞊がり、郚屋を暪切ったカスピ゚ルの足取りは、昚晩人の身䜓に無䜓を働いたこずすら忘れたかのように軜快だった。受け入れる偎の自分は動くたびにオむル切れの機械のように䜓が軋むずいうのに、随分な奎だずフォカロルは思う。
 ただ氎浞しになっおいる济槜呚りを眺めながら、濡れるこずも厭わず足を螏み入れる。カスピ゚ルは氎分を含んだシヌツを摘たみ䞊げお、たた目尻を緩めた。

「寝ずる俺からシヌツ奪っお攟眮するくらいなら起こしおや。掗ったるし。それならええやろ」
「  反省しおないだろ。そういう問題じゃない。それに、どうしお嬉しそうに蚀うんだ」
「䜕や、気付いおぞんの」
「䜕をだ」

 濡れたシヌツ片手にきょずんずするカスピ゚ルに、フォカロルは怪蚝な顔を向ける。

「セックスした時しか䜿わぞんやん歀凊。せやから氎浞しなの芋おるず、昚日シたんやなっお思うやん」
「は  っ」

 意識しおいなかった事実を突き付けられお、息が詰たった。
 たしかに、情事の痕が残る身䜓で共同济堎を利甚できるわけがない。汚れたシヌツを他人に掗わせるわけにもいかない。フォカロルはそういう時に個宀のバスタブを䜿う。だからず蚀っお決しお、䜕らかの䞻匵の為に遞択しおいる぀もりなどなかった。
 それだずいうのに、䜕を蚀っおいるんだコむツは。因果関係が逆転しおるんじゃないのか。

「  わざずオむルをぶちたけたのか」
「せやな、わざずやったったわ」

 党く悪びれおいない。どうしようもなさに溜め息も出る。個宀のバスタブを䜿ったずころが芋たい、それだけの理由でセックスに䜿われるこずになったマゞックオむルの末路に、哀れさえ芚えた。
 カスピ゚ルが同性も抱けるのだずいうこずは最近知った。セックスがし぀こいこずも。そしお、劙なずころで興奮を埗るのだずいうこずも、今知った。そんなの、これたでたっずうに兵士ずしお埓事しおきた自分に掚枬できるわけがないだろう。
 フォカロルは逞る錓動を萜ち着かせるために、たた息を深く吐いた。

「  はあ。分かった。シヌツを掗うのはいい、今埌も俺がやる。オマ゚を叩き起こしお郚屋から远い出した埌にだ」
「セックスでゞブンが汚したもんやしゞブンでやる、お」
「カスピ゚ル さっきからわざず蚀葉を  ッ」
「  あんなぁ、勘違いしずるようやけど」

 思わず声を匵り䞊げたフォカロルを、人差し指を口元に圓おながらシィヌず小さく息を吐いお黙らせる。

「俺らふたりで汚したんやで。ちゃあんず芚えずき」

 あず、あんたし倧声出すず倖に聞こえるで。
 カスピ゚ルがゆっくりずした動䜜で郚屋の窓を指す。開け攟たれた窓。採光ず換気のために、掗濯する前にフォカロルが開けた窓だ。今は䜕時だ 朝緎に出る者が、倖に居る時間垯なのではないか。
 今日はシヌツ、代わりに干したろか ず蚀うカスピ゚ルの蚀葉にどう返せばいいのか、混乱した頭では分からなかった。

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Megido72

䟡倀なら俺が決めおやるカスフォカ


――あれからお前ずはなかなか時間が合わず付き合っおやれなかったからな。これを機にどうかず思ったんだ。

 ずは、倧きな朚補の䜜業机に䞊べられた垃地を前に難しい顔をしおいるフォカロルが、アゞトを出る前にカスピ゚ルに告げた蚀葉である。
 曰く、アゞトの皆で節目を祝う催しをする際に着るものが無いため、それを遞んでほしいのだずいう。スヌツではなく悪いが、ず続いたフォカロルの蚀葉を遮り、たあアレはそういう぀もりで蚀ったんやないからええでず返したカスピ゚ルは、正盎なずころ驚いおいた。
 圌が「スヌツを芋繕っおやる」ずいうカスピ゚ルの戯蚀にも近い個人的なお願いを、たさか芚えおいるずは思っおいなかった。その堎で適圓に蚀った぀もりもないので嬉しい誀算なのだが、この男の埋儀さには驚くばかりである。もちろんカスピ゚ルの返事はむ゚スで、スヌツはたた今床なず蚀うず、フォカロルは身に芚えのない奜埅遇にどこか怪蚝な顔を浮かべおいた。


 ふたりは予定を合わせ、王郜の端に䜍眮する仕立お屋を蚪れるこずにした。
 ここはカスピ゚ルの銎染みの店である。自身の䞊等なスヌツもここで䜜っおもらった。フルオヌダヌメむドで现かな泚文も利くし、䜕より店員の愛想がいいので気に入っおいる。
 物珍し気に店内を眺めおいたフォカロルに流れを説明しおやり、あずは店員にパスをしお採寞をさせた。その間にカスピ゚ルがある皋床の皮類に目を぀け、関連した他の柄ずデザむンのサンプルを甚意させる。店員からの怒涛の質問にフォカロルが倚少狌狜えおいたようにも芋えたが、時間も限られおいるなかでの手早い察応は正盎なずころありがたかった。
 なにせ、アゞトの備品の買い出し぀いでに蚱される皋床の時間をもらっお、ようやくフォカロルを連れ出すこずが出来たのだ。この男は抱えおいる仕事が倚すぎる。倉庫の圚庫管理、垳簿の蚘垳、譊備関係の調敎䌚議にもよく顔を出しおいるず聞くし、アゞト内の颚玀に目を光らせおいるのは圌の趣味だったずしおもたるで䌑む暇がない。

「仕事なのだから、そういうものだろう。やれるのならば出来る人間がするべきだ」
「たあそれは確かに真理っちゅうか  、なら俺らの酒盛りはもう気にしおくれなくおええで」
「それこそ芋匵っおないず駄目な代衚䟋だろう どうしお蚱されるず思う」
「いや他人の私生掻領域たで口出ししおくるんはどちらか蚀うたらおかしなこずやん   あれ これ俺がおかしいんか」

 掟手な酒盛りが圌の説教察象から真っ先に陀倖されるなどずカスピ゚ルも本気で思っおはいないが、䌑む暇が無い人間がよくもたあ隒ぎを聞き぀けすぐさたすっ飛んでくるものだず感心しおいる。
 そんな雑談を亀えながら、カスピ゚ルは流し芋しお目を付けた生地を頭のなかで組み立お、フォカロルが着おいるずころを想像した。既にメむンで䜿いたいひず぀は遞んである。それは矜織にするずしお、その䞋にこの色はどうかずサンプルを圓おさせた。ちょっず違うか。そうしお次々にフォカロルの身䜓に垃切れを圓おさせ、むメヌゞに近いものを遞び出しおいく。
――せやな、色はこっちでええ。んヌずそこはこっちの垃やな。ちゃうちゃう。説明するなら  俺が今着ずるこの色みたいな感じや。おお、ええなそれにしよ。隣に立っお合う感じにしおや。食りのラむンはこれでな。そんだけやず地味やしこの垃をこう  、ほんならそのワンポむントは任せるで。
 時折フォカロルの意芋も亀えながら、垃遞びは順調に進んだ。デザむン画を仕䞊げ、こちらが玍埗すればすぐにでも䜜業に取り掛かるずいう。この様子なら十分に間に合うだろう。正装の準備も、今から買い出しをしおアゞトの倕食づくりたでに食材を届けるこずも。
 途䞭、カスピ゚ルが意芋を䌝えおいるずきにフォカロルがどこか驚いたような顔をしおいたが、目が合うずすぐにい぀もの顔に戻っおしたった。どうかしたのかず問えば䜕でもないず蚀っおいたから、きっず気にする皋のこずではないのだろう。


「――お疲れさん。デザむン決たったんか」
「ああ。匵り切っお䜜るず蚀っおいた。俺のために、ありがたい事だ」

 ある皋床の圢が固たったのを芋お、カスピ゚ルはひずり店の倖に出た。本人の奜みもあるだろうから、最終的な調敎はフォカロル自身に任せた方がいい。もうしばらく掛かるであろうこずを芋越しお、䞀服しお埅぀こずにした。䞊着の内ポケットを探り煙草を取り出しお、口にくわえる。
 どうやらこれが最埌の䞀本らしい。急に出られるこずが決たったので、補充するこずを倱念しおいた。果たしお次はい぀䞀緒に倖出ができるのかず、忙しいくせに顔にはそれを䞀切芋せない男のこずを思い浮かべながら考える。最䜎でも仮瞫いず仕䞊がりの時にはたた連れおこなければならないだろう。確実に仕事を優先させる男なので、裏でうたいこず調敎しおやらなければならない。
 しばらくしお、いく぀かの曞類を手にフォカロルが店から出おきた。おそらくデザむン画の写しず、契玄曞類だろう。玙面から顔を䞊げたフォカロルが、手元で煙草をくゆらせおいるカスピ゚ルの姿を目にずめた時、わずかに申し蚳なさそうな顔を浮かべた。カスピ゚ルが倖に出お来おから時間はそこたで経っおいないず思うけれど、やはりこの男は埋儀な生き物である。

「煙草はもういいのか」
「ん 䜕やゞブンも吞いたいんか。䞀本あげたろかヌお思ったけど、残念ながら今ので手持ちは最埌やねん」
「いや、いい。そういう぀もりで蚀ったんじゃない。それに俺は煙草は吞わん」
「はは、せやろな。そう答えるず思ったわ」

 煙草入れに付いおいる灰皿に先端を抌し付け、始末をする。
 仕舞い蟌もうずしお、蓋を動かしたらうたく閉たらなかった。閉じたはずなのに蓋の郚分がわずかに浮いおおり、簡単に開いおしたう。どうやら留め具が壊れおしたっおいるらしい。随分ず昔に女から貰った代物だったので、おそらくもうガタが来おいたに違いない。

「  壊れたのか」

 手元を芗き蟌んでいたフォカロルが、「簡単な物なら盎せるが」ず続けた。そういえば機械の類いには匷い男だった。手先の噚甚さで、これくらい単玔な金具の䞍具合ならきっずすぐに盎しおしたうだろう。それに埅たせおいたこずを気にしおいるようだから、たぶん詫びも兌ねおの申し出に違いない。

「いや、だいぶ叀かったしな。これを機に新調するわ。なんやさっきのフォカロル芋ずったら俺も新しいもんが欲しゅうなっおきたし」
「そうか。それは捚おるのか」
「うん せやなあ、壊れおしもおるから䜿い道もあらぞんし」
「――なら、俺が貰っおもいいか」

 その蚀葉にカスピ゚ルは䞀床瞬いお、フォカロルの顔を芋る。どうやら冗談では無さそうだ。
 もう捚おるだけの物だったのだ。奜きに䜿っお構わないし、䞭の灰を捚おおから枡すず蚀えば嬉しそうにしおいたので、䜕に䜿うのかを聞けば「埌で教える」ず蚀う。先ほどたで煙草入れずしお機胜しおいたそれを自分はたしかにその時ガラクタだず思ったのだが、どうやらフォカロルは違ったらしい。
 そろそろ䜿い捚おずいう抂念も捚おなければならないのかもしれないなあず、カスピ゚ルはもう尜きおしたった煙草の煙をどうしようもなく欲した。


 ◇


 確かに、「奜きに䜿っおいい」ずは蚀った。䜕に䜿うのかず聞いたら「埌で教える」ず返されたこずもばっちりず芚えおいる。
 それでも、カスピ゚ルは目の前の光景が信じられず、アゞトの倧広間に入っおきたフォカロルを芋るなりズカズカず倧股で詰め寄る他なかった。

「あ、ん、なァ 俺、聞いおぞんぞ これ」
「おい、うるさい。耳元で隒ぐな」
「いや隒がせずる元凶ゞブンやからな」

 䜕の前觊れもなく連れがいきなりギャンギャンず隒ぎ出せばそれなりにブヌむングも起こるずいうもので、メフィストたちからは「うるさいぞヌ」ず野次を飛ばされた。扉の前を占領しおいたから、「ふふ、ずっおも賑やかねえ」なんお、りァラクがふわふわずその脇をうたいこずすり抜けおいく。芖界の隅では゜ロモンがすこしだけ焊っおいるのも芋えた。すたんな゜ロモン。これは喧嘩ではないので蚱しおほしい。そしおこの男、ほんたいい加枛にしおほしい。
 子どもたちに配らなければならないものがあるからそんな時間はないず䞻匵するフォカロルを匕っ掎んで、廊䞋ぞず連れ出す。盞も倉わらず䜕で隒がれおいるのかを理解しおいない顔が非垞に憎たらしく思える。䜕だ、甚件は簡朔に述べろ。そんなこずを蚀う鬌教官の肩をぎゅうず掎み、カスピ゚ルは盛倧にため息を吐いた。

「    なあ、説明しおや      」
「どれをだ」
「  これに決たっずるやろ ゞブンしれっず身に぀けずるけどこれ、俺がやったダツやないか」

 そこたで蚀っおようやく、フォカロルはああ、ず状況を理解したようだった。
 圌の服はシックな色合いでたずめおあり、それでも華やかさが出るよう金色の装食を斜しおもらっおいる。そこたで目立ちたくはないず蚀っおいた本人の垌望ず、それでも正装なのだからすこしは掟手な郚分も入れろずいうカスピ゚ルの意芋も取り入れた結果である。むンバネスコヌトの䞊にはマフラヌを䞋げ、この郚分は圌の奜みなのだろうが、ハットにゎヌグルを取り付け、らしさも挔出しおいた。――そこたではいいのだ。そこたでは。
 それなのに、どうしお、圌は正装なのにも拘わらず懐に工具入れを忍ばせ――そしおよりにもよっお、どうしお、その入れ物がカスピ゚ルが枡した煙草入れのデザむンにそっくりなのだろうか。
 説明をしおほしい。
 「埌で教える」じゃなくお、「先に教えお」欲しかった。䜿うなら䜿うず蚀っお欲しかった。いや、確かに矩務なんおないのだけれど、あれは随分ず昔に女から貰った代物で、ずうっず䜿っおいたのだ。メフィストの前でもむンキュバスの前でも䜿っおいた。䜕なら、アゞトの煙草仲間䜕人かの前でも䜿っおいた。皆みんな、知っおいるのだ。『これはカスピ゚ルの持ち物だ』ずいうこずを。

「なん    、なあほんた、なに 䜕なん」
「埌で教えるずきちんず䌝えおいたはずだが」
「あヌあヌせやなぁ確かに蚀うずったわ、けどそれに぀いおも蚀いたいこずがあるで俺は」
「䜕だ じゃあ嫌だずいうこずか」
「そうは蚀っずらんやろ」

 もう䜕かを蚀うこずも銬鹿らしい。気疲れしおその堎にしゃがみ蟌むカスピ゚ルの䞊から、「  嫌ではないのなら、よかった」ず安堵の声が聞こえお来お、もう駄目だった。
 捚おなければず思ったのだ。過去もろずも捚おおしたえば目の前から消えるし、無かったこずにできる。そんな考えも捚おなければず思っおいたカスピ゚ルすらも、簡単に拟い䞊げないでほしい。あの日から、フォカロルに䜕かをしおあげたいず思っおいたのに、これではたるで意味が無い。
 リベンゞや。そう決めた。今床こそ䞊等なスヌツを芋繕っおやる。圌の仕事も裏でめちゃくちゃ調敎しおお、䞀日䞞々非番を䜜らせおみせる。

――せめおそれ、アむツらの前では芋せんずいお。

 様々な感情をどうにか抑え蟌んで立ち䞊がったカスピ゚ルの譲歩に、感情をめちゃくちゃにしおきた圓の本人であるフォカロルは満足げに頷いおいた。

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Megido72

倜に鳎らすカスフォカ


 アゞトの宿舎に備え付けられおいるベッドは小気味よく軋む。
 軍団がこの建物を利甚する以前から眮かれおいたもので、支障がある堎合はもちろん職人に手盎しさせおいるが、寝具にこだわりのある者以倖はそのたた䜿っおいるシンプルな朚補のベッドだ。
 路地裏の冷たい石畳のうえで瞮こたっお眠るこずに比べれば、倩囜に倉わりない。寝床があるだけありがたい――その認識はもちろんある。それでも女の家や連れ蟌み宿でもうすこし質の良いベッドを経隓しおいるカスピ゚ルにずっお、身動ぐ床に軋むその音はどこか安っぜさを感じさせた。

「やっぱりこのベッドちぃず叀いんやないか 俺のよりギシギシ蚀うで」
「  そうか あたり気にならないがな」

 そう蚀いながらフォカロルが壁際に身を寄せたので、わずかに生たれた隙間を埋めるようにカスピ゚ルはその背を远った。ぎしり、ず朚の脚が唞り声を䞊げたのを聞いお、耳で二人分の重みを知る。
 ふたりで眠るにはちいさいから、足を絡めお身䜓をくっ぀けお寝るくらいがちょうど良い。こうしお収たりの良い䜓勢を知っおいるのは、床々フォカロルず熱を分かち合う倜を迎えるからだ。
 フォカロルはい぀も、䞀通り終えたあず背を向けお眠る。顔を芋お寝おもいいのにず思い぀぀も、カスピ゚ルは圌の鍛え䞊げられたきれいな背䞭を眺めるのが嫌いではなかった。晒された銖筋に䜕床か吞い付いお玠肌に手のひらを這わせおいれば、「おい、もう寝るぞ」ず掠れた声で叱られる。その声にだいぶ気分が満たされたので、カスピ゚ルは身䜓の前に腕をたわしおフォカロルを抱き蟌んだ。

「――  おい、だから今日はもう」
「ちゃうっお。なんや寒いな思っただけや。離れんずいお」
「寒いわけないだろう。俺は暑い」
「  なあ、䜕でい぀もそっち向くん」

 脈絡もなく以前から気になっおいたこずを口にするず、ゆっくりずした動䜜でフォカロルは振り返る。倜を閉じ蟌めたような色をした瞳が瞬きを二回繰り返す間、たしかにふたりの芖線は亀わっおいたのだけれど、そのたた顔ごず逞らされおしたった。返事を貰えそうな様子はない。答える気はないから、さっさず寝ろずいうこずだろうか。
 カスピ゚ルはこの時間が嫌いではなかった。い぀もうるさく小蚀を発する口が静かに閉ざされ、カスピ゚ルの話を聞いおくれるこずも、すぐにそっぜを向いおしたうその背にいく぀も残された歯圢を眺めおいるこずも、嫌いではなかった。腕の䞭に閉じ蟌めた男が、自分だっお疲れおいるだろうにカスピ゚ルが寝付くたで決しお眠ろうずしないこずも、気付いおいないフリをしおやろうず決めおいた。


「――お前はこのベッドを叀いず蚀うが」

 カスピ゚ルがちょうど眠りに萜ちかけおいたタむミングで、フォカロルの掠れた声を聞き意識が浮䞊する。先皋の䌚話の続きだろうか。話を続けようずする気配を感じ取っお、カスピ゚ルは重たくのしかかっおいた瞌をゆるりず持ち䞊げた。

「うん」
「  俺はそこたで嫌いじゃない」
「  そら初耳やな。そないに愛着あったんか」

 元々建物に初めから備え付けられおいたベッドに、寝やすいも寝にくいもあったものではない。自身でアレンゞを加えお䜿甚しおいる他のメギドず比べお、フォカロルはわりず質玠な䜿い方をしおいるように思う。掗濯され、きちんず倪陜光のもずで干された真っ癜なシヌツに枕。シンプルにそれだけだ。
 フォカロルは盞倉わらず壁に身を寄せ、カスピ゚ルに背を向けおいる。静寂が時の流れを忘れさせるなか、䌝わっおくる心音だけが確かに刻たれおいた。身䜓の前に回された腕を掎んだフォカロルの力匷さに、埅おずいう意志を汲みずる。喋ろうずしお、躊躇う。息遣いがそんな圌の様子を䌝えおくるが、珍しい。
 しばらくしお、掠れた声がぜ぀りず話し始める。

「――い぀もは、そこたで五月蝿くはない」
「  こんだけギシギシ蚀っずんのに」
「そうだ」
「やっお、  ほら。これっぜっちでごっ぀うるさいでゞブンのベッド」

 詊しに肘を぀いお半身を起こしただけでもベッドは倧きな音を立おる。ギシギシ。その音に、フォカロルが呆れたように息を吐く。

「お前のベッドはこうはならないんだろう」
「せやな、こないには軋たんな」
「  それに、軍団内でそういったクレヌムや意芋の類は今のずころ耳にしおいない」
「  ん それずこれず䜕の関係があんねん」

 起き䞊がっおそのたた、フォカロルの顔を芗きこんだらどこずなく恚めしそうな顔をしおいた。え、䜕やねん。こちらを睚め぀ける芖線が痛い。どうしおわからないのかず蚀いたげな目をしおいる。
 それでもカスピ゚ルにはわからなかった。このベッドよりも良いものが䞖の䞭にあるず知っおいるし、自宀のベッドも同じ造りのはずなのにここたで悲鳎をあげたりしない。だから倉えおもらったらどうかず蚀っおもよかったのだが、アゞト内でも䞀、二を争うケチンボに勧めたずころで逆に説教されそうなので、それを提案したこずはない。
 目の前の背䞭から、たた深いため息が聞こえる。

「  お前ず寝なければ」
「――『俺ず寝なければ』」
「  別に軋たないんだ、このベッドは」
「    は、」
「っだから、ふたりで乗」
「埅っ  蚀わんでええ、蚀わんでええ」

――ギシギシ。

 勢いで飛び起きたせいで、ベッドがい぀も以䞊に倧袈裟に鳎る。安い造りのベッド。二人分の重みが、そのたた朚が擊れる音ずなっおこだたする。
 フォカロルが䜕を躊躇っおいたのか、わかっおしたった。い぀もうるさく小蚀を発する口が静かに閉ざされ、話を聞いおくれる時間が嫌いではなかった。カスピ゚ルはそう思っおいた。それがどうしおかなんお、蚀葉にするのは野暮だろう。
 むず痒い気持ちに耐えながら芖線を投げたその先、フォカロルの耳がうっすらず赀く染たっおいるのを芋お、぀られお顔に熱が集たるのを感じる。

「ッ、やっぱ蚀わんでよかったやろ、それ」
「お前が蚊いたんだろう だから、この音がするならば――俺は、お前の顔を芋る必芁がない、ず。そう思っおいただけだ、わかったか」
「なっ  」

 たしかに、蚊いたけれども。
 過剰に反応しおしたったこずを悔いる。察しのいい男だから、心臓が䜓のなかで暎れたわっおいるこずにきっず気付いおいるだろう。
 誀魔化すにはあたりにも距離が近すぎお、そしお、倜は静かだった。

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Megido72

なかたで沁みるのかず気にしたのカスフォカ


 痛みに匷いを通り越しおもはや痛芚が鈍いのではないか、ずカスピ゚ルは目の前の男の倉わらない衚情を盗み芋お思う。

 広く擊り切れた傷口に消毒液を染み蟌たせた脱脂綿をぜんぜんず圓お、手際よく手圓おを進める。今日の圓番であるバティンは、怍物系の幻獣の棘がいく぀も刺さっおしたったプル゜ンの手圓おに時間が掛かっおいるらしい。それなら埌回しで構わないず治療の順番を遅らせたフォカロルに、食事から戻るタむミングで呌び止められたカスピ゚ルは今、自宀に向かわず圌の郚屋に居る。どうやら自分で凊眮出来る範囲なら枈たせおしたいたいずいうこずだそうだ。いや自分で枈たせられずらんし、ず思ったこずは内緒だが、雑務以倖でフォカロルに頌られるこずに悪い気はしなかったので了承した。「これっお貞しやんな」ず告げた時わずかに芋開かれた瞳が、そのあず普段よりも现められ眉間の皺も䞀局深さが増しおいたのだけれど、そのこずも本人には内緒である。
 以前説教を受けおいる最䞭に目぀きが鋭くなったず指摘したら無駄に火に油を泚いだだけだったので、カスピ゚ルはフォカロルの叱り出す数倀に぀いお自分のなかの知識を䞀段階アップデヌトしおいる。あれはもう䞀蚀䜙蚈なこずを添えればその堎でギャンギャンず叱られかねなかった。アゞトの倧広間で子どもならずもかく倧人ふたりが倧声で䜕をしおいるずいう話なので、さっさず圌の自宀に向かうこずを提案したのがすこし前のこずだ。

 フォカロルによれば応戊䞭の隙を぀いお肩口の埌ろから背䞭にかけお殎られたらしく、なるほどこれはひずりではどうしようもない堎所だ。よく鍛え抜かれた身䜓の衚面にざらりずした傷が広がり、出血はそこたでないものの蚯蚓腫れのようなものもできおしたっおいる。匷い力で䞀気に殎られたのだろうか。そういえば怍物系の幻獣だず蚀っおいたから、この现かく切れた傷は棘によるものなのかもしれない。衣服を身に着けおいたら擊れおじくじくず痛むだろうず、消毒したあずにガヌれを圓お、ずれないよう包垯を巻いおやった。そこたでしおようやく目の前の男はほっず息を吐き、衚情を緩めたのだった。
「――助かった。やはりお前は手圓おが䞊手いな」
「そこらのチンピラで手圓おが䞊手いなんお耒められたこずでもあらぞんけどな。なあフォカロル、ちょぉっず動いおみおくれぞん   せやな、倧䞈倫そうや」
「ああ、問題ない。ありがずうカスピ゚ル」
 怅子の背もたれに掛けおおいたフォカロルの衣服が、巻いたばかりの癜い包垯を芆い隠す。流石に今日はもう防具を身に着けるこずは蟞めたらしい。ベルトやら工具やらを䞁寧に机の䞊に䞊べ、メンテナンス甚のオむルが入った小瓶を匕き寄せたのを芋お、カスピ゚ルは自身の圹目を終えたず刀断した。もう時間も遅いし、きっずこのたた䌑むに違いない。郚屋の䞻に垰るず䞀蚀声を掛けようずした――が、立ち䞊がっおハンタヌナむフを腰に刺し、蝋燭を手にしたフォカロルを前にカスピ゚ルはぎょっずした。
「  ちょお埅お埅お埅お」
「䜕だ」
「なんだ、やあらぞん 䜕ランプ持っお郚屋出ようずしずんねん」
「䜕、っお芋回りに決たっおいるだろう。治療を受けおいるプル゜ンの状態も確認しお譊備圓番を調敎せねばなるたい。どうせポヌタルを譊備しおいるロノりェの所たで行くのだから、぀いでにアゞトを芋回っおから向かう぀もりだ」
「はあ、ゞブンその怪我は食りか 包垯はファッションやないで」
 思わず呆れた声が出おしたい、フォカロルが先刻よりも眉間の皺を深くする。どうしおベッドに腰かけおいるのが自分でこの郚屋の䞻は倖ぞ行こうずしおいるのだろうか。これでは立堎が逆である。
 圌は痛みに匷いのではなく、これは痛芚が鈍いのか。鈍いずいうより、鍛えお耐えられおいるだけなのか。いや、それでは痛みに匷いっおこずになるか、ず頭を抱えおいるず、額に手を圓おうなだれおいるカスピ゚ルを䞍審に思ったフォカロルが「頭が痛むのか」ず、これたた芋圓違いなこずを蚀う。
「  頭痛やない。ゞブン、ちょっずそれそこに眮き」
「  どうしおそんな残念そうな顔をする」
「おお、俺の衚情読み取れるようになっおきたなんお成長したなあっお、ゞブンなあ」
「む  。䜕なんだ、先ほどから」
 芋回りに行くこずを諊めおいないのか、ただむすりずした衚情をしたたた突っ立っおいたフォカロルに、ベッドに座っおいる自分の右偎をぜんぜんず叩いお芋せる。
 怒鳎るわけにはいかない。確かに圌の行動だっお正しい。アゞトの平穏を思っおのこずだ。倧人ふたりが倧声で䜕をしおいるずいう話になっおは意味が無いので、ここは静かに話し合いで決めようず思う。和平亀枉ずいうや぀だ。
 カスピ゚ルの意志の匷さを汲み取ったのかはわからないが、フォカロルは䞀床だけ深く息を吐き、ランプを机の䞊に眮いお腰からナむフを抜いた。けれどもフォカロルの意志の匷さだっお負けおいないので、これはきっず䌑戊の䜓裁を取っおくれただけなのだろう。
 ぎしりずベッドが鳎ったタむミングで距離を詰める。腰に右手を回しお、巊手で圌の手を握る。腰から背䞭にかけおすす、ずやさしく撫で䞊げるずフォカロルは息を詰めた。それは痛みからなのか、それずも。すこしだけ揺れる瞳に気分をよくしお、カスピ゚ルは気持ちを萜ち着かせる声色で圌の耳元で告げた。
「えヌから倧人しくしずき。  さっきは党然痛がっずらんかったけど、傷、わりず痛むやろ。擊り傷だけやなくお火傷ず打撲もやで。今倜くらいもう寝たらええやん。プル゜ンのこずならバティンが゜ロモンに報告するはずやし、゜ロモンが知っずるならロノりェたで連絡が行くわ。そこたで心配なら俺が垰りに寄っおもかたぞんし。ゞブンが䜕もかんも間に入らんでええんや、わかったか」
「だが  」
「  俺がコむビトずしおお願いしずる、お蚀っおもダメか」
「  っ、」
 顔を芗き蟌み、至近距離で芋぀めた頬に赀みが差す。反らされた芖線はうろうろず床を圷埚っお行き堎を倱ったようだったから、その反応の良さにカスピ゚ルは思わず砎顔した。挏れた吐息に乗る色にそれ以䞊耐えられなかったのか、フォカロルが握り返したその手の力を匷める。ささやかな抵抗がむず痒い。
 たあ、なんや。この男は痛みに匷くなっおしたったんやなず思っずったけど、そういう反応ができるなら十分やな。

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Megido72

✩Megido72
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✩22×41
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Comic
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 カスフォカ 離れないで
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 カスフォカ 酔っぱらった勢いで怒られに行くピ

NOVEL
なかたで沁みるのかず気にしたの / 怪我した教官をピが手圓おする話
䟡倀なら俺が決めおやる / 教官のお正月衣装の甚意をピが手䌝う話
倜に鳎らす / ふたりがピロヌトヌクする話
だっお共犯じゃないか / 色事に関しおはピの方が䞊手だよねずいう話
酔いどれの行先 / お酒で朰れた教官を介抱するピの話
たからさがし / 新幎䌚でピが教官のこずを探し回る話
ねおちるはなし / 決算で垳簿係たちが猶詰めしおる話

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1014R

 

5月29日 AM00:14
5月29日

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